第四十九話 人脈
ベルリオとモニカとは宿で別れ、ローナと二人で宿を後にした。
「たまたま来た島で海賊退治して、そのまましばらく海賊から島を守る用心棒の仕事が来る・・・強いっていいなぁ」
ベルリオとモニカはもうしばらくこのクロレリア島に滞在することになった。今回の海賊襲撃騒ぎが最近海路で好き勝手している海賊の影響だという考えから、島はほとぼりが冷めるまで二人をこの島を守る為に雇う運びとなった。今回の騒ぎを考えれば当然の判断だ。
「・・・ねぇ、トーマ」
「なんだ?」
「レカンナとかベルリオとか、あれくらい強いキャラクターって描けないの?」
「は?」
「だってさ、こういうときって私たちとことん無力でしょ?」
ローナのいいたいこともわかる。事が戦いに及んだ際、為す術が一切無いのだ。ローナが戦えるキャラクターを求めるのも当然だ。
「描けるし、もう描いてある」
「え? 本当?」
「ああ、だけど実戦じゃ使えないぞ」
「どうしてよ」
「数分しか具現化していられないからに決まってるだろ」
具現術士。そう呼ばれた人達が早々に廃れたのが、この具現可能時間の短さだ。たった数分では局地的な小さな戦いでは戦力になったとしても、大局的な観点で見れば無力でしかない。
「ちぇっ、戦えますってなるともっとお客さんが増えたのに・・・」
できることが多ければ多いだけ、幅広い層のお客さんがやってくる。新しいことに商機を見出すのは勝手だが、現実問題としてできないことはどうしようもない。
「じゃあ人脈作戦続行か」
「ん? 人脈作戦?」
ローナが漏らした一言がやけに気になった。
「人脈作戦って何だ?」
「え? そりゃ、いろんなところと繋がりを持っておくと強いでしょ? 戦いになれば戦える人に頼って、人気が必要なときは人気者に頼る。もちろん対価は払うよ。でもそういうのも商売としてはありだよね」
彼女はおそらく、レカンナやベルリオ達も人脈の一つという考えを持っているのだろう。様々な局面で実力を発揮できる助っ人を大量かつ常時供給できる。そんなことができればどんな事態にでも対応できてしまう。
「とりあえずその一歩として、ベルリオとは連絡先を交換しておいたよ」
タダの偶然の出会いを一回の偶然で終わらせない。そうすることで様々な実力者との繋がりを強くしていく。ある意味人材というものを商品とする考え方だ。もちろんこちらもそういった人達に仕事を探してきて依頼を持ちかけなければならない。
前世の時にも似たような商売体系があった。特別に雇用契約を結んだりするわけではないため、ローナの言うことは全く同じというわけではない。しかしフッと浮かんだ前世の記憶から、この会話にはあまり良い感情は抱かなかった。
「やるのはいいけど、変に人を囲い込んで好き勝手に使い潰したりしないでくれよ」
「・・・え? あぁ、うん」
無意識に、やや起こり口調で出てしまった言葉。ローナはこちらの感情や言っている意味がわからないのだろう。言葉を失って困惑していた。前世の時の経験や知識を思い出して八つ当たりしている事に間違いない。自己嫌悪に陥りそうなくらい自分が情けなかった。
「・・・あー、ごめんな」
自分の情けなさを隠すように小さく謝り、自分の情けなさを隠すために少し速く歩いた。
「何がごめんかよくわからないけど、忠告はいつでも言ってきてよ」
ローナは歩く速さを揃えてきて、隣から顔を覗き込みながら言った。商売的に考えれば忠告は見方を変えたアイデアにもなり得る。彼女が素直に忠告を欲したのか、それともただ商売人として違う視点のアイデアを求めたのかはわからない。
ただ情けない自分と比べると、隣に並んで歩いている小柄な彼女の器は大きく頼りがいがあるもののような気がした。そんな彼女と自分を比べられたくなくて、少しだけ歩幅を大きくした。
しかし小さな島のため、距離ができる前に港に到着してしまうのだった。
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