第四十七話 襲撃理由

 宿に戻るなり好待遇と化した。通常の部屋はグレードが上がり、接客の雰囲気も一気に変わる。まるで島を救ってくれた英雄をもてなすかのようだ。

「雑魚海賊の退治くらいでここまでされるとは思わなかったな」

 広い部屋に移動したベルリオはどことなく居心地があまり良さそうではなかった。一方のモニカは特に変化が気にならないのか、着替えた後は熟睡モードに切り替わっている。

「英雄扱いって事じゃないかな?」

 島の危機を救ったのは間違いない。そこから感謝の意を込めて、島全体でお礼をする。それは何もおかしな事では無い。

「うーん、それだけじゃ無いと思うけど・・・」

 しかし単なる英雄扱いという回答にローナが待ったをかけた。

「他に何かあるって言うのか?」

「まぁ、なんとなくだけど、伝説にあやかっている部分もあるかなって思ってね」

「伝説?」

 首を傾げるベルリオに対して、こちらは伝説という単語一つで彼女の言いたいことが伝わった。

 セントレイトという町を中心に広がる聖女と戦士の伝説。そこに登場する聖女のイメージカラーは白で、戦士のイメージカラーは黒。この島にやって来たモニカは白の衣装を身に纏い、ベルリオは黒を着ている。そこから伝説にあやかっている。というローナの見立てになったのだろう。

 もっとも、伝説の聖女は戦わず、今回モニカは白い服に血しぶきをつけているが、そんな細かいことはどうでもいいのだろうか。

「へぇ、その伝説は初耳だな」

 ベルリオに説明したところ、彼はこの伝説を知らなかったようだ。遠い東の方からやって来たというのだから知らなくても無理はないだろう。

「それにしてもどうして海賊はこの島を襲ったのかな? この島はクロレリア茶葉が有名くらいで他に目立った産業もないし、海賊が襲うにしては手に入る物がなさ過ぎるんだけど・・・」

 ローナの言う通り、言い方は悪いかもしれないがこの島は確かにへんぴな田舎の離島だ。海賊が欲しがりそうな金目のものは無く、占拠したところで利益があるは言い難い。

「ああ、それならこいつが理由だな」

 ベルリオが取り出したのは小さな粒が入った袋。まるで錠剤のようだ。

「これって・・・魔薬?」

「ああ、しかもこれはゲジェイルの花が原材料の魔薬だ」

「ゲジェイルの花・・・ってことは、海賊の目的はこの島で間違いなかったって事?」

「そうだろうな」

 ローナ飛べるリオの二人だけで話が進んでいき、完全に置いてきぼりを食らってしまう。

「・・・トーマ、全くわかってない?」

「えっと、ああ、すまない。さっぱりだ」

 ローナは一つため息をついて、それから説明してくれた。

 ゲジェイルの花は魔薬の主成分としてはポピュラーだが、育成環境が整っている場所が少ない。特別な施設を作ればすぐに見つかってしまうため、ゲジェイルの花は高値で取引される。そんなゲジェイルの花はクロレリア茶葉と育成環境が酷似している。つまりクロレリア茶葉が特産品であるこの島であれば、ゲジェイルの花を大量に育成することが可能ということになる。

「海賊達はこの島の気候や土壌が目的だったってわけか」

「ああ、それと下手に島民を殺して回らなかったのは奴隷にするためだろうな。島民達にゲジェイルの花を育てさせて、自分たちが丸儲けって算段だろう」

 そうなると人目に付きやすいところで子供をいたぶっていたのにも納得がいく。ただ痛めつけていたのではなく、反抗してくる島民を先にあぶり出して叩いておけば、支配下に置いて奴隷化するのも簡単にいく。あれは海賊達の作戦だったのだろう。

「そうなると用意周到にこの島を調べて狙ってきたって事か」

 この島を支配下に置いてゲジェイルの花で大金を得る。その目論見が外れたどころか、返り討ちに遭って全滅だ。最悪のタイミングでベルリオとモニカがやって来た。海賊達は運がなかったのだと思うほか無い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る