第四十五話 落とし物
夜明け前には静寂を取り戻していたクロレリア島。島民達と共に身を寄せ合っていた山手側を夜明け頃に港の方へと下って行く。道中にはまるで戦争の後であるかのように、海賊達の屍が其処此処に転がっていた。
「ベルリオ・・・まだ?」
「もう少し待て、明るくならないと海は危険だ」
港の波止場。岸から少し離れたところで沈む船など存在しないかのように、二人は夜明け前の海を前に立ち尽くしていた。
島民達を始め山手側に逃げていたみんなは身構えながら、周囲をキョロキョロと見ながら、誰もが周囲を警戒しながら港へやって来た。
「ね、ねぇ、もう海賊はいないの?」
二人に助けを求めた子供。多くの大人と共に山を下りてきていた。
「もういないだろ。船も沈めたしな」
沈み行く海賊船。とすごいことをしたというのに、ベルリオは簡単にサラッと言って終わる。特に自らの力や功績を誇示することなく、日常会のようだった。
「じゃあこんなところでどうしたの?」
「落とし物・・・」
表情こそいつもと変わりの無いモニカ。しかし雰囲気はどことなく落ち込んでいるように見えた。
「落とし物? 何を落とし・・・あっ」
モニカの服は多くの返り血で赤い水玉模様が沢山できていた。しかしその水玉模様が不自然に前方の胸元だけ無い。白いロリータ服ということで水玉模様がなければわかりづらかっただろうが、彼女の服の胸元は大きく破れているのだった。
「やられたの? 大丈夫?」
ローナが心配そうにモニカに駆けつけて様子を見る。しかし怪我は一切無い。
「あんな奴らじゃモニカに傷一つつけられねぇよ」
そう言うベルリオも全くの無傷だ。海賊と大立ち回りを披露したというのに、夜明け前に片付けてしまい、無傷で何事もなかったかのようと、二人の実力は計り知れなかった。
「船を沈めるために撃った魔法弾の破壊力で飛んできた破片が服を掠めただけだ。怪我はしていない・・・が、ちょっと大事なものを船に落っことしてきちまったんでな」
モニカが胸元に閉まっていた大事なもの。それは店で見た宝石のような結晶のことだろう。血相にされた人間というのはまだ信じがたい部分が無いわけではないが、あれほど大事に持っていたものだ。諦めきれないのだろう。
「こっちは夜が明けたら勝手に潜って探す。もしかしたらこの島に長居することになるかもしれない。クロレリア茶葉もこっちで勝手に手に入れる。ここまで案内と島の解説は助かった。そっちは好きなタイミングで帰ってくれ」
あくまで自分たちの手で、海に潜って探そうとしている。握り拳大の宝石のような結晶は目立つとはいえ、海の中にあるのであれば探すのは困難を極める。
「おい、みんなっ! この兄ちゃん達が海に落とし物をしたらしいぞ!」
「そりゃ一大事だな。この島を守ってくれた礼だ。みんなで探そうぜ」
今の会話を聞いていた島民の男達。海賊退治をしてくれたお礼として、島民総出で落とし物を見つけ出そうとしている。
「俺達のことは大丈夫だ。それよりもこの島のことを考えろ。被害の全てもまだ把握し切れていないだろ?」
「助けてくれた恩人が困ってるってのに何もしないで見てられるかってんだ」
ベルリオの説得は功を奏さず、声をかけられた島民達が波止場に集まってくる。
「島の状況確認と日常の立て直しを頑張ってくれよ・・・」
ベルリオが頭を抱えていた。
「はぁ、あんた達もなんとか説得してくれないか?」
こちらからも島民には島のことを最優先にするように言って欲しいようだ。確かに島のことを助けたがそれは彼らの立場からすれば仕事を請け負っただけのこと。落とし物も個人的なものでこの島には何の関係もない。だから島民の助けを受けようという気が無いのだろう。
「でも言っても聞かなさそうですけど?」
「まぁ、そうなんだが・・・」
困っているベルリオの為にも、この島が早く日常に戻るためにも、何かできないか。それを考え始めて才女に思い浮かぶのが具現化装置の活用だ。
「・・・あ、そうか。要は落とし物が早く見つかれば良いんだ」
落とし物が見つかればベルリオ達が海に潜る必要も無い。島民達も安心して島の日常を取り戻すために行動できるようになる。最高の解決策だ。
「簡単に言うけどな、何か手でもあるのか?」
「まぁ、ないわけじゃない。確か行き先が島って聞いてあの原稿は持ってきていたはずだから・・・」
この状況の早期解決。そのために具現化装置と原稿の用意を始めた。
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