第四十三話 仕事の対価
子供の泣き声と海賊の声からまだ遠い。しかし向こうからもこちらが認識できたようで、遠い距離を挟みながら視線が交錯した。
「おい、そこのお前ら! 俺らとやる気か?」
戦局は海賊達が優勢に立っているだからだろうか。言葉や声に余裕があるように感じられる。
「はぁ、見つかった以上、隠れているわけにもいかないか」
ベルリオの足が明かりを中心とした人だかりに向かう。彼を先頭にみんながその後に続く。先頭を歩く気持ちはわからないが、後ろから付いていくのはまるで出頭するような感覚だった。
「返事がねぇな。俺様は優しいからもう一回聞いてやる。俺らとやる気か?」
明かりの人だかりが、ベルリオの通り道を開けるように自然と道を空けていく。状況的には全く安心できないが、唯一子供をいたぶる手が止まっている事だけが事態の好転に見えた。
一瞬の沈黙。ベルリオは海賊をあっさり無視して、視線は助けを求めてくる子供や周囲の大人達に向けられる。
「この島は俺にいくら払える?」
大人が子供に言うセリフとは思えなかった。
「ちょっと! こんな時にお金の話?」
ローナ声が荒れた。
「そうだ。金の話をしなければならない。俺達は慈善事業をしているわけじゃない。そしてこの島も、常に無防備ではいられない」
この島は財政的に苦しい。しかしだからといって防衛力を軽視していい理由にはならない。何かをするには常に対価が必要になる。この島を守ってもらうための人員にも、その戦いにかかる経費にも、出費というものは常について回る。
「助けを求めれば誰もが無償で助けてくれるなんてことはあり得ない。もし今日、俺がここでこの島を救ったとしても、いずれ同じことが起こってこの島はまた苦しむことになる。ならはっきりと全員に認識させるべきだ。どれだけ厳しくても、島の守りには金を捻出しなければならない」
今日いきなり現れた来客で、実力も未知数で助けてくれるのかも不明。財政状況も相まってか、周囲の大人達はみんな口を閉ざしていた。
「もうっ! こういうときはとにかく払うっていうところだよ! 守り切れたらそこからお金お捻出をみんなで考える、今はこの島を守るのが最優先じゃないの?」
ベルリオが本当にこの島を守り切れるかはわからない。守り切れなければ死ぬだろう。ならば出費の心配はない。ひとまず助けを求めておいて、結果が出ればそこから金のことを考える。島側の作戦としてはありだろう。
「おいおい、そんなことして俺達が優しくしてやると思うか?」
しかし海賊側にしてみれば、島民の抵抗に他ならない。言うだけ言って、ベルリオが守り切れなければまたここから始まる、という事にはならない。確かな抵抗を試みたことになるため、最悪の展開に至ってしまえば目も当てられない。
「みんなを助けてあげて!」
助けを求めてきた子供がポケットからお金を取り出した。子供のお小遣い。とても大人に仕事を依頼するような額ではない。だが、子供からしてみれば目の前で友達が痛めつけられている。それを救えるのなら持っている全財産でも、藁にもすがる気持ちで差し出したのだろう。
「・・・飯代にもならない、か」
子供が差し出す微々たるお金。ベルリオはそれを一瞥した後、モニカに視線を移す。無言で数秒、見つめ合うように白いゴシックロリータの少女を見た彼は、子供が差し出した微々たる金額を手に取った。
「この仕事、受けてやるよ」
子供の表情が明るくなるのと同時に、海賊の男が地面につばを吐く。
「なんだよ。べらべら喋った割に、結局は慈善事業か? テメェみたいな正義の味方気取りには反吐が出るぜ」
「そうか、奇遇だな。俺もお前らみたいなクズには反吐が出る」
ベルリオが武器を手に取る。剣と銃が合体したような、変わった形の武器。銃剣(ガンブレード)とでも呼ぶのが正解なのだろうか。前世の頃にやったいくつかのゲームに登場していた記憶がある物を現実の武器として目にするとは思わなかった。
「テメェはすぐには殺さねぇ! じっくりいたぶって、見物人共に絶望を与えてから殺してやる!」
「俺にはそんな趣味はないな。安心しろ、さっさと殺してやる」
武器を持つベルリオの表情が変わった。それと同時に、周囲の雰囲気も変わる。まるで空気が凍てついたかのような、背筋がぞくりと恐怖を訴える。
「俺と出会った不運は死んでから勝手に恨め」
言い終わると、ベルリオは海賊よりも先に動き出した。
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