第四十二話 助けを求める友達
宿を出て日が暮れた夜道を歩く。道沿いに点々と電灯があるため完全に真っ暗ということはないが、それでも財政が豊かでないせいか電灯の明かりは不十分だった。それでも非常事態と言うことで足を止めるわけにはいかない。
「お願いします! もう止めてください!」
電灯が多く、遠目からでも目立つ場所。明らかに遠目からでも目に付くために、その場所を選んでいることは一目でわかった。
目立つ中心にいるのは武装した男。その男の手には子供が捕まっており、傷を負っていた。止めるように懇願しているのは大人の女性で、子供の母親かもしれない。
「なんだ? この島はよぉ。もう誰も助けに来ないのか?」
目立つ場所に陣取っている男。その明かりの周辺には他にも大勢の大人がいる。しかし誰も子供を助けに行こうとしない。
その理由も一目瞭然。子供を捕まえる武装した男の周囲には島民と思われる人が大勢倒れている。おそらく子供を助ける為に行動した者達だろう。
「残念だったな。あの大人達はお前のことはもうどうでもいいみたいだ」
男は子供の腕に軽く刃を当てる。泣きじゃくる子供の体が一瞬ビクッと反応したかと思えば、腕から血が流れ落ちた。そしてさらに子供の名に声は大きくなるのだが、周囲は戸惑うだけで助けに動かない。いや、動けなかった。
「つまんねぇな! もうちょっと楽しめるかと思ってたんだけどよ!」
子供を捕らえて、見せしめのように痛めつける。その怒りに触れた大人達が向かってくるが、それを軽々と返り討ちにした。それがこの場で起こった全容だろう。
全てパフォーマンスのように、武装した男の思惑通りに進んでいそうだ。
「あっ・・・」
そんな騒動が目立つ場所で起こっているというのに、ベルリオは脇道にそれてそのままクロレリア茶葉の畑の方へと向かおうとしていた。
「ちょ、ちょっと、助けないの?」
「それはこの島の統治者の仕事で、俺の仕事じゃない」
国という線引きを無くした以上、その町の統治者がその町の自衛を行う。この島はその自衛が行えず、海賊の襲撃を許した。ならばその責任はこの島の統治者にある。だから自分がわざわざ出て行く場面ではない、とベルリオが言いたいのかもしれない。
「でも、目の前で子供が酷い目に遭っているんだよ」
「そうだな。じゃあ助けたとしよう。その後はどうするんだ?」
「え? その後って・・・」
「敵は海賊、ここは島。奴らが逃げるまでずっと戦う気か?」
島という逃げ場がない場所で、勝算を踏んで襲撃を仕掛けてきた海賊。その海賊を全て倒すか、全員が逃げるまで戦わなければ終わらない。ここで助けに入るということは、そういう場面に足を踏み入れることと同じだ。
「弾薬の補給は? 負傷したときの治療は? 状況が不利な時に一度身を隠す場所は? 疲労が溜まった際の代替戦力は? それに相手の人数や武装の度合いは? 何も無い、何もわからない。それなのに戦いを挑むというのは無謀だ」
ベルリオの意見があまりにも正しすぎて、ローナは言葉が出てこなかった。
「でも・・・」
「こちらに危害が及ぶ以外でやるなら、仕事としてなら受ける」
戦うことにメリットがいる、ということだろうか。だが小さいとはいえ店を持って金勘定をすると、彼のいっていることの重要性もわからなくもない。
「あっ! モニカ!」
脇道に入る前に見つかってしまった。それも宿に来る途中に一緒だった子供達。中にはモニカに友達になろうと花を渡した女の子もいた。
「武器持ってるって事は強いんだよね? 助けて!」
子供の助けを求める声に、防寒するしかない大人達に加え、囚人の注目を集めている武装した海賊の男もこちらに気が付いた。
「お願い! 友達が捕まってるの!」
子供達の助けを求める声に、モニカは足を止めてベルリオの方へと視線を向ける。何かの指示を待っているかのように、視線だけで言葉は一切なかった。
「はぁ、面倒事がついて回る運命か・・・」
さっきまで道を避けて脇道を通ろうとしていた。しかしモニカの視線によって考えを変えたのか、道の先にいる海賊の男を彼は遠く見据えていた。
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