第三十九話 幼き者達の交流

 宿へと移動中、遠巻きだった地元の子供達が距離を詰めてきた。むげにするのも可哀想だったため、宿へと着くまでの間ならいいだろうと、相手をしてやることになった。

「どこから来たの?」

「イグナリオからだよ」

「何しに来たの?」

「クロレリア茶葉をもらいにね」

「茶葉? だったらうちのじいちゃんが農園やってるよ」

 子供の相手を始めた瞬間だった。まさかの農園関係者の子供がそこにいた。

 しかしよくよく考えればこの島の数少ない主産業のクロレリア茶葉だ。少ない人口の中に農園経営者の割合が多くても何もおかしな事はない。

「朝摘みと夕摘みのどっちが欲しいの?」

「ん? 収穫の時間で何か変わるのか?」

「うん、えっとね、朝摘みは苦いけど体にとっても良くて、夕摘みは苦さがマシになるけど効果は少し落ちる・・・ってじいちゃんが言ってた」

 前世でも果物を朝に収穫して加工したというのを売り文句にしている商品が多くあった。クロレリア茶葉にも収穫が朝夕で変えることで何かしらの変化があるのだろう。

「朝か、じゃあ明日は早朝に行動開始だな」

 ただでさえとんでもなく苦いクロレリア茶葉。それをベルリオは最も苦いタイミングで収穫したものを手に入れようとしている。茶葉というのだから誰かが飲むのだろうが、全く飲む相手の想像が付かない。

「ねぇ、これあげる」

 集まってきた子供達。その中の一人の女の子がローナとモニカに花を渡していた。

「花?」

「うん、プラットの花。友達か、友達になりたいって思った相手に渡すんだ」

 小さな女の子に友達になりたいと思われるローナとモニカ。確かに二人とも小柄で見た目は子供に近い。しかし実年齢はこの島の子供達より上だろう。

「えっと、あなたは何歳?」

「十歳だよ。二人は?」

 女の子の返答でローナの表情が強張る。

「私は十五」

 モニカが面倒くさそうにさっさと答えた。彼女はローナとは違って年齢差に全く興味がないように見える。

「・・・十八だけど・・・」

 島の女の子とローナとモニカ。全員の中で当然ながら最年長だった。しかし一緒にいるのに全く違和感を覚えさせないという筋金入の幼児体型だった。

「えー、見えないー」

 悪気のない子供の無邪気な一言がローナの胸に突き刺さる。

「うぅ・・・ダメだ・・・早く宿に着かないかな・・・」

 ローナの精神力は限界に達しようとしていた。

「じゃあもらう」

 精神的ダメージを負っているローナと違い、モニカは子供から差し出されていたプラットの花を受け取った。

「えへへ、これでお友達だね」

 女の子は可愛らしい笑みを見せる。この島に馴染みはなかったが、年齢性別関係なくこういった現地の住人との交流も悪くない。内容によっては創作意欲がかき立てられるかもしれない。

 そう思うと前世では勿体ない時間を過ごした。原稿を数多く仕上げるために、部屋に閉じこもっている時間が極端に長かったのだ。もっと旅行なり何なり、見聞を広められることの一つでもしておけば良かったという後悔の思いが浮かんでくる。

「・・・友達?」

 モニカの表情は特に変わらない。漫画を見ているときの集中している様子などからは、気に入っているのだろうというのが伝わってくるのだが、どういった感情なのか、この子は表情に変化がないため全く読み取れない。

「まぁ、いいんじゃないか?」

 モニカと目が合ったベルリオの一言を受け、モニカは表情こそ変えないまま、その女の子と握手を交わしていた。

 一組の友好関係が誕生したその横で、ローナの心の傷はまだ癒える気配が見当たらなかった。

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