第三十七話 足りない物は現地調達へ

 連日レカンナの手によって仕留められた魔獣から剥ぎ取ったレア素材。そのいくつかがベルリオの持ってきた合成獣のレア素材と入れ替わった。この町の近辺では魔獣だけでなく合成獣の出現もそれなりに報告が上がっている。しかし魔獣も合成獣も種族や種類が数多くある。

 ベルリオが持つ合成獣のレア素材はこの町の周辺では確認されていない物。もっと東の方で確認されている。手に入れようとすれば手間暇に追加の資金が必要になる。そのため収集された土地から離れたこの地での適正価格を知っていれば、後は商売の駆け引き次第で高く売ることもできる。

 ローナが持つ魔獣のレア素材は、この町の近くでも収集するのには骨が折れるためレアとされている。しかし近隣で収集できるため、近場ではなかなか希望通りの価格では買ってもらえない。しかしベルリオがやって来た東の方では、この魔獣は生息していないため価格が跳ね上がる。

 魔獣と合成獣のレア素材を持つ者同士、双方の利益に基づいた物々交換が行われた。

「まぁこんなものか。あとクロレリア茶葉は手に入るか?」

「クロレリア茶葉? あれはもう病院で処方されるくらいしか手に入れる方法が無いと思うけどなぁ」

 クロレリア島というこの町の南の港から少し離れたところにある小島、クロレリア島で作っている特別な茶葉がある。それはクロレリア茶葉と言われ健康にとても良い。そのため十年ほど昔に流行ったのだが、生産地が小島で大量生産できなかったことからどんどん品薄になり価格も高騰した。その結果、手を出す人が減り、人気は完全に廃れてしまった。

 今では病院で不健康と診断された人達に処方される薬となり、あまりの苦味の強さと後味の悪さから嫌いな薬ランキングにも入っている。

「クロレリア茶葉なんて何に使うの?」

「茶葉の使い道は茶を作ることだろ」

「え? あれ、飲む気?」

「飲み物なんだから飲むものだろ?」

 とんでもなく苦いため、クロレリア茶を飲みたいという者はいない。いるとすればそれは相当の変わり者か、飲んだことがなくて興味本位で飲もうとしているかの二択だとされている。

「うーん、クロレリア島に行けば手に入ると思うけど・・・」

「そうか。じゃあ誰かに案内を頼むか」

 ベルリオのその言葉を聞いた瞬間、ローナの目の色が変わった気がした。レカンナとの一件で、案内役という役目に味を占めたのかもしれない。

「その道案内、私たちが引き受けるよ」

「え?」

 ローナの「私たち」に思考が一瞬止まる。どうやらこちらの都合はお構いなしのようだ。

「クロレリア茶葉は手に入れられるのか?」

「クロレリア茶葉が大人気だった頃に、親と一緒に旅行兼仕入れで行ったことがあるから大丈夫だよ」

 クロレリア茶葉が大人気だったのは十年も前の話だ。十年前の記憶を頼りに大丈夫と言い切ってしまうローナの精神力がどうなっているのか理解に苦しむ。

「それなら頼む」

「了解、じゃあ準備するからちょっと待っててね」

 ローナはベルリオとモニカに背を向ける。当然向かい合う形になると、表情と手の動きで早く準備しに行けと指示を出してくる。その指示に作品の締め切りが間に合わなくなっても良いのかと返すが、今は目先の収入を重視しているであろう彼女に有無を言わせない表情に押し切られる。

 締め切りまで余裕を持って作業をしてはいるものの、この調子ではなかなか作業が捗らない。しかし生活のためにやむを得ないという側面もある。

「はぁ、危なくなったら徹夜して乗り切るか・・・」

 前世ではトラブル等で締め切り直前に間に合わないと言うことが何度もあった。その時は必ず連日連夜不眠不休作業続行作戦を決行した。その成果か、締め切りまでに終わらせられなかった作品はない。それは二度目の人生になっても一つの自信だ。

 ただその後の数日は全く自分が使い物にならない抜け殻になるのも、自分のことなのでよくわかっている。

 故に生活がかかっているとはいえ、あまり選びたくない選択肢だ。そのためできるだけ早く帰ってこられるようにしたい、と心から思った。

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