第三十六話 少女と保護者

 少女は一心不乱に漫画を読み進めている。その一方でお菓子には一切手をつけていなかった。漫画を真剣に読んでくれているのは嬉しかったが、隠し持っているお菓子の中から厳選したお気に入りを出したのだが、そちらはどうやら不評だったようだ。

「狭いお店だけどどうぞ」

 作家と読者だけの空間だった店内。そこに商売人のローナがお客らしき人物を連れて帰ってきた。一心不乱に自分の作品の漫画を読んでいる少女と二人だけの時間は終わりを告げた。

「あっ、お前こんなところにいたのかよ」

 ローナが連れてきた客は少女と知り合いのようだ。

「まだ自由時間。何も悪くない」

「悪いなんて一言も言ってないだろ」

 慣れたやり取りは二人がそれなりの時間を共に過ごしている証拠だ。

「ローナ、お客?」

「うん。この人が欲しいものが品切れで、他の店を探していたから連れてきたんだ」

「ここで取り扱ってるのか?」

「ほとんどはあるよ。日用品じゃないから物置にあるの。ちょっと取ってくる」

 ローナが物置を漁っている間、店内には微妙な沈黙の時間が流れた。どうやらここにいる三人は、全員口数が多い方じゃないようだ。

「・・・モニカが世話になったな」

 沈黙を破ったのはローナが連れてきた客だった。背の高い好青年だが、年齢の割に人生経験が豊富に見えた。服は黒で髪も黒。少女とは白黒で正反対だった。

「俺はベルリオ。仕事は賞金稼ぎや合成獣の駆除のような荒事だ」

「トーマです。芸術屋で、絵を描いたり人形を作ったり、まぁ色々やってます」

 ベルリオと名乗った青年は戦い方面の人間だったようだ。

 彼が言った合成獣とは前大戦時代に生物兵器として様々な生物を掛け合わせて作られた生物兵器。大戦後に用無しとなった生物兵器は捨てられて野生化した。その生物兵器が世界中でそれぞれの生態系を築いて、現在では人間に危害を加えるのが社会問題となっている。

「そっちはモニカ。まぁ、同僚だ」

 同僚と言われてもしっくりこない。ベルリオは戦いに向いている雰囲気がある。数日前にあったレカンナにもそういう雰囲気があった。しかし今漫画を読んでいるモニカにはそういった雰囲気は一切感じない。後ろでの補助役を担っているのかもしれないと、勝手に納得することにした。

「この町には買い物に寄ったんですか?」

「ああ、道中で魔獣やら合成獣やらとやり合ってきたからな。通常弾に魔法弾、どっちも補給しなきゃならなくなったんだ。あと、バイクの燃料も」

 どうやらベルリオの乗るバイクにモニカが同乗して、この町にまでやって来たようだ。たまたまバイクの燃料と弾が心許なくなったために寄った。理由は実にシンプルだった。

「それと途中でやり合った合成獣の爪や毛皮が売れないか交渉していたんだ。けどまぁ、この町の店は買い叩こうとしてくるからな。店先で同じ目に遭って、意気投合したらここに連れて来られたってわけだ」

 ローナとベルリオ。二人して店で稀少な物を売ろうとして、思った値段では売れなかった。その不満が意気投合させたのだろう。初めて来た町での買い物だ。気に入らない店でするより、気に入った店でする方が気分は良い。

 ローナから見れば思わぬところで客を手に入れたラッキーな形だ。

「お待たせーっ!」

 物置となっている部屋から大荷物を抱えてローナが出てきた。いったいどれだけ売りつける気なのだろうかと、ローナの次の言動に気が気ではなかった。

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