第三十四話 見つからない買い手
レカンナとの一件を終えて数日。行政からの依頼の作業に着手し始めた。だいたいの工程にかかる時間なども計算して、少し余裕を持って終わらせることができる計画だ。
「ふぅ、こんなものか」
依頼されたのは等身大の人形。聖女と戦士の史実を伝説的にアレンジしたストーリーのワンシーンを作り上げる。その第一歩を悪くないペースでスタートできたのだ。
「ちょっと休憩でも入れるか」
今回は等身大の人形作りとのため以外と体力を使う。木を削ったりヤスリをかけたりという作業は大工作業と変わらない。作り上げた設計図に加え、自身の感覚で細部を細かく作り上げていく精神力を要する作業は後半になる。そのため前半はより体力を使う作業のため、マメに休憩をとらなければ体が持たない。
「ん? どうした?」
店内で椅子に腰掛けているローナ。彼女はテーブルの上に並べた、先日手に入れた魔獣のレア素材とにらめっこをしているかのように真剣な眼差しのまま動かない。
「どうもこうもないよ」
ローナがため息をついてにらめっこのような態勢を解く。
「どこもかしこも足元見ようとしてくるんだよ」
彼女はこの数日、魔獣のレア素材の売却先を探している。レア素材と言うことで売却先の候補は数多くあるのだが、だからといって簡単に売ることはできない。そこは商売で、価格交渉が行われる。
「魔獣のレア素材は希少性があって高価だけど、どこも私の思う額で買い取ってくれないの」
ローナの売りたい額と取引相手の購入希望額が折り合わない。この数日、複数の知り合いや買い取りを行っている店を訪ねていたようだが、見ての通り成果はさっぱりのようだ。
「誰か良いお客さんでも紹介してくれないかな?」
「そんなに都合良くいく商売なんてないだろ」
「まぁ、そうだね。早々ダメになる物でもないし、少し長い目で買い手でも探そうか」
テーブルの上に置かれた魔獣のレア素材。柔らかい素材の布にくるみ箱に入れて、店の奥の物置へと持って行く。レア素材を物置に収納すると、ローナは出かける準備を始める。
「どこか行くのか?」
「別の仕事。そのついでにレア素材の買い手も探してくる」
「そうか。気をつけて行ってこいよ」
ローナは仕事に出かける。店に残った身としては店番を兼任することになるのだが、この店には日用品が置いていないためあまり客が立ち入らない。店番の兼任といっても客が来る可能性は低く、いるだけで良いという非常に気楽なものだった。
しかし万が一、万引きなどが起こる可能性もある。店頭に経つわけではないが、出入り口が見える場所にはいないといけない。そのため部屋の外でもできる作業を行いながら、ローナの帰りを待つことになった。
「・・・ってなると、やっぱりこれか」
人形作りは多くの木屑がゴミとして出る。店の売り場が見えていないといけない位置で行うのは気が進まない。そうなると人形作りの仕事以外の作業が行いやすく、結果的に机の引き出しから紙とペンを持ち出して漫画を書き始めることになる。
「もうクライマックスのシーンだな」
構想の時から一番描きたいと思っていたシーンに突入する。このシーンを描くとなれば俄然創作意欲がわき上がってくる。気持ちも高ぶり、無意識にペンを握る手にも力がこもる。
鼻歌交じりにリズムを刻みながらテンポ良く漫画を描いていく。ペンの進みも悪くなく、良い構図や背景のイメージなども湯水のように湧いてくる。今日はずいぶんと調子が良いようだ。
「どうせ他の客とか来ないし・・・真剣に続けるか」
接客ができる場所に入るが、一切接客には気を遣わない。店番を半ば放棄した状態で、真剣に漫画を描き続けた。
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