第二十九話 大戦の遺物

 銃撃を一切恐れず、多人数相手を喜び、人を殺すことに躊躇いがない。戦いが始まって数秒で二人目が惨殺され、その死体を銃撃の盾にしつつ三人目を刺殺した。レカンナはギアを上げるかのように速さを増す。次は一振りで二人同時に殺す技を試し、おびえて逃げようとする男の背後に一瞬で迫ると、背中から刺殺した。

 一分とかからないうちに六人を殺し、次の標的を探すように視線を動かした瞬間だった。銃声と共にレカンナの腹部から血しぶきが飛んだ。

「やったぜ!」

「よし! よくやった! 殺しちまえ!」

 賊達がこの一撃に喜んでいる。

 一方でレカンナは銃弾が貫通した腹部を一瞥。そのまま視線を自分に弾丸を当てた賊の一人に向けた。

「そう焦るな。順番に、全員殺してやる」

 まるで何事もなかったかのように、彼女は歩き始めた。その彼女に周囲から数発の弾丸が当たるのだが、それでも彼女は何も無い平原を一人歩いて行くように狙いを定めた男との距離を詰めていく。

「ひ、ひぃっ!」

 その光景はまさに恐怖そのもの。死に神が自分を殺すためだけに接近してきているように感じただろう。男はレカンナの視線から逃れようと馬車に陰に隠れ、そのまま逃走を図った。

「全員殺してやると言っただろう」

 しかし逃げる男よりもレカンナの方が早かった。一瞬のスタートダッシュからの跳躍で軽々と馬車を飛び越えると、逃げる男の首根っこを掴んで地面に押しつける。

「や、止めてくれ! 助けて・・・」

 賊の一人の命乞いを無視し、あっさりと死体をもう一つ作った。血が流れる刀を空振りして付着した血を飛ばし、次は誰にしようかと視線を動かす。

 そこにはもう戦意のある賊は誰一人いない。賊達は全員が散り散りに山の中へと逃げていってしまった。

「ちっ、半分近くが逃げたか」

 刀に一日を死んだ男の衣類で拭って鞘に戻した。そして馬車の御者の元へ行く。

「まだ息はあるな。私は応急処置しかできないが、治癒の術はあるか?」

 ローナと顔を見合わせる。魔法も使えないし、医術の心得もない。それどころかまだ目の前で繰り広げられたレカンナの悪魔のような戦い方に頭の整理が追いついていなかった。

「応急処置をすれば町に帰るまでは持つか」

 レカンナが御者の男性の応急処置を始めようとしたとき、具現化装置のことを思い出した。そして持ってきた原稿に、ちょうど良いものがあったのを思い出した。

「あっ! ちょっと待っててくれ」

 鞄を開けて中から具現化装置を取り出す。そしていくつか持ってきた原稿の中身をチェックし、治療が可能なキャラクターが主人公の漫画をセットする。そして具現化装置のスイッチを入れれば、瞬く間に治療のプロフェッショナルの登場だ。

「ヒーラーのジュナです。皆さん、お加減はいかがですか?」

 白衣の天使と言ってもいいだろう。純白の衣服を身に纏った女性キャラクター、ジュナの登場だ。

「これは大変ですね。すぐに治療します」

 銃撃を受けた御者の男性に歩み寄ると、その傷口に手をかざして治癒の魔法を使う。先ほどまで大量の出血をしていた傷口はみるみるうちに塞がっていった。

「また・・・大きい・・・」

 ジュナの膨らんだ白衣の胸元をローナは不機嫌そうな目で見ていた。

「久しぶりに見たが、お前は具現術士か?」

 ジュナが御者の男性を治療し、その様子をローナが不機嫌そうに見ている傍らで、レカンナが具現化装置に視線を向けていた。

「具現術士?」

「違うのか? それとも今は呼び方が違うのか・・・」

 レカンナは少しだけ考える素振りを見せる。

「まぁそれはどうでもいい。そのガラクタが役に立ったのを初めて見た。珍しいものを見せてもらった。礼を言う」

「えっと、レカンナさんはこの具現化装置に詳しいんですか?」

 レカンナは具現化装置に詳しそうだった。だからつい、質問をしてしまった。

「詳しくはない。一緒に隊列を組んだこともあるし、敵対して全滅させたこともある。それだけだ」

 言っている意味がわからなかった。具現化装置は前大戦の時代に生まれ、終戦を迎える前に廃れたごく短期間だけ実用化された兵器。それと隊列を組んだとか敵対したとか、まるで何十年も前の大戦の時代を生きていたかのようだ。

「えっと、レカンナさんって失礼ですけどおいくつですか?」

「私は自分の年齢など知らん。だが、一つだけ言えるのは・・・」

 レカンナが具現化装置を指さす。

「そのガラクタも私も、大戦中に生まれ、今は必要とされていない遺物だ」

「・・・え?」

 外見からは若い女性という印象しかなく、全く年齢を感じさせないレカンナ。そんな彼女の口から飛び出した大戦中に生まれたという言葉は、すぐには信じられなかった。

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