第二十八話 賊の襲撃

 町を出てさらに北の山へと向かう。距離もそれなりにあって山道も険しいため、馬車を手配することになった。道案内をするためレカンナに馬車代を出してもらった。道案内を商売といえるのかはわからないが、出費が少なくて収入があるのであればこれもまた一つの商売の形だ。

 しばらく馬車に揺られながら山道を進んでいると、突如馬車が止まった。

「ひ、ひぃっ! やめろ! 撃つな!」

 馬車の前方から御者を務めている男性の声。その次の瞬間、銃声が響き渡った。

「な、なんだよ」

 明らかに何かしらの事件が起こっている。それもかなり危なそうな事件だ。

「山賊の襲撃? この辺りは少し前に治安維持部隊が安全確保したばかりなのに・・・」

 町に近い場所や町同士の交通の要所といった場所は治安を維持しなければならない。周辺の町同士が協力して、それぞれの町が保有している戦力で治安維持に当たっている。この山は少し前に治安維持部隊が安全を確保したばかりだった。

「トラブルか」

 しかしそんな状況でもレカンナは特に慌てる様子はなかった。面倒くさそうに腰を上げると、ちょっと起き抜けに飲み物を買いに行くくらいの様子で、馬車の外へと出て行った。

「ちょ、ちょっと、行っちゃったよ! どうするの? お客さんなんだけど?」

「俺に言うなよ」

 鞄の中に詰め込んだ具現化装置を使わなければならないかもしれない。危機的状況を認識して使うことを躊躇っている場合ではない。必要であれば躊躇なく使う、その覚悟は一瞬にしてできた。

「中にいてもしかたない。様子を見に行くぞ」

「う、うん・・・」

 このまま客のレカンナを放置しておくわけにもいかない。馬車の御者もどうなったかわからない。助けられるのであれば助けなければならない。

 二人して恐る恐る馬車から外に出た。

「おい、小娘がもう一人いるぞ」

「男は殺して女は売り払えばそれなりの稼ぎになるな」

 前世の漫画などでよく使われる悪者のセリフのテンプレートを実際に聞くことになるとは思わなかった。

「こっちの話を聞いていないのか?」

 十数人の武装した男達に馬車は取り囲まれた状態だ。だがレカンナは臆することなく、それどころか賊を相手にするのが面倒そうな様子さえあった。

「さっさと消えろ。でないと、全員殺すぞ」

 レカンナが腰に差している短めの刀に手をかける。だが男達は怯む様子を見せない。それもそうだ。男達の武装は刃物だけでなく銃器もある。刃物が武器のレカンナ相手に臆する必要などないのだ。

「売り物だから傷つけられないと思うなよ、姉ちゃん。ちょっと痛い目に遭ってもらうぜ」

 銃器を持った一人の男はレカンナの足に狙いを定めて、躊躇うことなく引き金を引く。その瞬間、当然銃声が響き渡る。

「え?」

「は?」

 襲撃した側とされた側の両方が、目の前の光景に言葉が出なかった。

「吹っ掛けたのはそっちだ。後戻りできると思うなよ」

 放たれた弾丸を簡単に斬ったレカンナ。抜刀された短めの刀は鏡のように綺麗で、日の光を綺麗に反射している。その反射した光はまるでスナイパーライフルの照準やレーザーポインタのように、襲撃してきた男達の中の一人を照らした。

 光で目が眩んだのだろう。男は一瞬だけレカンナから目を背けた。その目を背けた一瞬で見た光景が、男が見た最期の景色となった。

 まるでバネか何かではじき飛ばされるように跳んだレカンナ。彼女が持つ刀は一振りで、簡単に男の首を撥ねてしまったのだ。

「この女! 殺しちまえ!」

 味方が一人殺されたことで、襲撃してきた賊達が走力を持ってレカンナを殺しにかかった。一人で十数人を相手にする戦い。普通なら真っ向勝負は避けるのが当然の場面。そんな状況にあるレカンナ。彼女はその状況を楽しむように笑っていた。

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