第二十七話 道案内は誰の仕事か

「異形の者達の墓所って・・・」

 ローナに助け船を求めるように視線を向ける。その視線に気付いてくれたのか、ローナも会話に加わってくれた。

「異形の者達の墓所って、この町から北に行った山にあるところだよね。影姫が活躍した伝説の地の一つ」

 聖女様に付き従って戦士の活躍した伝説の地。どのような活躍劇があったのかまでは詳しく知らないが、観光目的っぽくないレカンナが伝説の地に行きたいと言ったことが意外だった。

「そうだ。そこへ行きたい。道案内を頼めるか?」

「ちょっと遠いから乗り物に乗らないとダメで、必要経費がかかっちゃうけど・・・」

「それくらいなら問題ない」

 移動にかかる必要経費はレカンナが持ってくれる。これで道案内を済ませれば仕事も終わったことになり、セントレイトの聖女の側近と繋がりができる。運が良ければ現代の聖女とも接触できるかもしれない。そう考えればこの仕事は受けないという選択肢がない。

「道案内承りましょう!」

 ローナはやる気に満ち溢れた笑顔で道案内役を了承した。

「出発は今すぐ?」

「できれば今日中に町に帰ってきたい」

「わかった。すぐ行こう! すぐ準備するから待ってて!」

 ローナが自室へと飛び込んでいくが、すぐに出てきて服の裾を引っ張ってきた。

「トーマ、何してるの? 早く準備する!」

「俺も行くのか?」

「当たり前じゃない。最高にいい印象を持って帰ってもらわないと、ね」

 好印象を持って帰ってもらう。そして販路拡大のための重要な繋がりを作る。それがローナの目的だ。そのためには人出が多い方がいいと考えたのだろう。

「ほら、わかった? じゃあ早く準備して」

 半ば無理矢理自室に押し込められた。こうなったら準備して道案内の仕事を一緒にこなすしかない。

「俺、芸術屋の仕事があるんだけどな・・・」

 切羽詰まっているわけではないが、時間に余裕があった方がいいことには変わりない。作業時間を沢山取りたかったが、ローナの方の案件も放って置くわけにはいかない。時間調整は後でもできないことはないため、ここは道案内役を買って出ることにした。

「これは・・・いるかな?」

 準備をしている途中、携帯できる具現化装置が目に入った。出先で何かが起こらないとも限らない。原稿と一緒に持って行けばもしもの時には役に立つだろう。だが、その役に立つことと引き替えに作品を一つ失うのが受け入れがたかった。

「トーマ! まだ? お客さんを待たせちゃダメだよ!」

 具現化装置を持って行くかどうかで悩んでいるところを、部屋の外からローナに急かされる。

「あー・・・持って行っても使わなければいいだけだ」

 何かがあったときのために持って行っておいた方がいいかもしれない。しかし使わなければ失うことはない。ならば持って行くだけ持って行って、使わずに帰ってくる。これが一番いい結果だろう。

 具現化装置をいくつかの原稿と一緒に鞄に詰め込み、準備万端として部屋を出た。

「遅い!」

 すでに出立の準備ができているローナに叱られながら、道案内の仕事が始まった。

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