第二十四話 短編キャラ

 具現化装置に十数枚の短編漫画を入れて準備完了。準備ができたところでローナが漫画の具現化を実行する。

「で、できた?」

「うそ・・・こんなことって・・・」

 目の前に現れたのはメイド服を着た一人の女の子。現れるなりまばゆいばかりの笑顔を見せた。

「はーいっ! ご主人様! ミミはご主人様にお会いできて光栄ですぅ!」

 元気の良い声が店の中に響いた。

「お、大きい・・・紙から出てきたのに・・・平面なのに・・・」

 ローナが出てきた女の子の胸元を見ながら何かブツブツ言っていた。こちらはこちらで夢が叶ったか瞬間だったため、感動で思考が完全に停止していた。

 せっかく具現化したというのに放置されていたメイドのミミ。彼女はメイドらしく部屋が散らかっていることに気付くと、即座に行動を開始した。

「いけません! 部屋が散らかっています! ここはミミにお任せください!」

 先ほどの爆発や紙の馬が暴れたりしたことで、ローナの部屋は確かに散らかっていた。その散らかった部屋を素早く掃除し始める。

 漫画内での彼女は掃除に特化した元気なメイドだ。綺麗好きで汚れている物や散らかっている部屋を見れば掃除せずにはいられない。そういうキャラクター設定にした彼女がそのまま、しかも二次元の紙に描いた物が三次元となって具現化されたのだ。

「ご主人様! お掃除完了いたしました!」

 恐るべき速さで掃除を終えた。ニコッと気持ちの良い笑顔を見せてくれるメイドのミミ。ここまで完璧に漫画のキャラクターが具現化されたことが未だに信じられなかった。

「あ、ありがとう」

 掃除をしてくれたことにお礼を言って、この後何を話そうかと考えていたときだった。具現化した彼女はキャラクターらしからぬ様子でモジモジしている。

「どうかしたのか?」

「いえ、ご主人様・・・その、申し上げにくいのですが・・・」

 何かを言うのを躊躇っているミミ。その間に彼女の体がゆっくりと透明になっていく。

「次はもっとたくさんの魔力エネルギーを用意していていただければ、もう少し長くご主人様と一緒にいられます」

 具現化した状態を維持するのにも魔力が必要だ。これほどの存在を長く具現化しておくにはエネルギー量が少なすぎたようだ。

「あと・・・」

 笑顔がメイドのミミ。それなのに、彼女のキャラに似つかわしくない泣きそうな表情を見せている。

「また、ミミを描いてくださいね・・・」

 ハッとさせられた。こちらは実験くらいの気持ちで漫画を具現化した。しかし具現化された漫画のキャラクターは紙ごと白紙に戻ってしまう。つまり具現化に用いた原稿に描かれた存在自体が消えてしまうことを意味する。

「描く、描くよ。絶対、今度は長編で・・・」

「ご主人様、ありがとうございます」

 ミミはそう言うと、完全に消えてしまった。

「・・・用意した魔力が空っぽ。時間は三分くらいかな?」

 具現化装置の状態を確認しながら、計測した時間をローナが読み上げた。

 たった三分。短編とはいえ数十ページの漫画を描く労力はなかなかのものだ。その労力が三分で消えてしまう。そしてそれ以上に、自分が作った我が子同然のキャラクター。それが消えてしまうことの悲しさは筆舌に尽くしがたかった。

「原稿は・・・真っ白か」

 短編でほとんどがミミのシーンだったが、サブキャラクターもいなかったわけではない。しかしサブキャラクターは具現化されることなく白紙となった。主人公だけが具現化され、サブキャラクターは主人公キャラのバックボーン的な扱いになるのだろうか。

 もし仮にそうだとしても、これ以上実験する気にはなれなかった。

「・・・用意したエネルギーもなくなっちゃったし、今日はここまでね」

 ローナが具現化装置を片付け始める。

「それにしても、トーマは大きいのが好きなんだね」

「は? 何の話だ?」

「さぁね、自分の胸に手を当ててよく考えてみれば?」

 落ち込んでいた気持ちが晴れたわけではないが、ローナの問いに意識が少し行ったことで気持ちが紛れた気がした。問いの答えにまではたどり着かなかったが、彼女なりに気を遣ってくれたのかもしれない。

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