第二十二話 具現化装置

 ローナに見せてもらったのは菓子折くらいの大きさの小箱。蓋を開けると、中には粉々になった粘土の塊や綿などが乱雑に入っていた。

「これが具現化装置?」

「そう、まぁ前大戦の頃にはもうあった技術なんだけど、実用化したものの使い勝手が悪くてすぐに廃れちゃったんだよね」

 前大戦とは魔法と科学による世界大戦。その頃にこの具現化装置というものを使って戦いが行われていたらしい。

「当時、問題点がいくつかあってね。まず燃費が悪い。これはエネルギー効率や外部接続の補助バッテリーとかを使えば、今ならそこまで問題にはならないと思うんだ」

「へぇ、じゃあ燃費に関しては問題解消なのか?」

「たぶんね。それで次の問題点が、具現果物を作るのに時間がかかって、運ぶのにも手間がかかるということ。一階使うとこんなふうに壊れちゃうんだ」

 箱の中に残された粘土や綿の残骸。どうやらこれは何かを作った後のものらしい。

「私はまぁ、こういった美術芸術は苦手だから、そこまでいいものは作れないけど・・・」

「つまり精巧なものを作れば作るほど具現化したいものを具現化したときの完成度が高くなるってことか」

「そ、そういうこと。しかもただいいものを用意すればいいってわけじゃなくて、作るときに込められた念というか想いというか、そういったものも完成度に関わってくるみたいなんだ」

 つまり弾丸を大量生産するように、戦力になる具現化できるものを大量生産することができない。

「そして作った人じゃない第三者が使うと、どれだけ精巧な良いものでも完成度が下がってしまうってこと。具現可能な時間が短くなったり、能力が低下したりするの」

 精巧に作れる技術者本人が戦場に行って自らの手で使わなければ最大限の威力を発揮できない。具現化装置というもの自体には大きな魅力はあるが、いざ戦いの場で使うとなるとこれほど使い勝手の悪いものはないだろう。

「具現可能時間とかは魔力やエネルギーを沢山装填すれば多少伸ばせるけど、何をどれだけ成功に作るかが重要なんだよね」

 前大戦時代に生まれ、大戦が終わる前に廃れた。理由はわからなくもない。

「当時は精巧な人形を作って作り手自身が具現化したりしたんだけど、それでも高い戦闘力とか破壊力とかを発揮するのは無理だったみたい」

 つまりこの具現化装置は大きなロマンを感じさせる。しかし作るコストや具現化させた後の効果などを考えれば、費用対効果が著しく悪いということなのだろう。

「さっきのあれはローナが作ったのか?」

「うん、粘土と綿と小石とかを使ってね」

「なんて言うか(形状はともかく)生きているみたいだったな」

「それはそうだよ。私が犬だってちゃんと念を込めて作ったんだから」

 材料は粘土でも、生物として完成させたものであれば、それは生物として具現化されるようだ。前世が漫画家志望だっただけに、この具現化装置というものにはとてつもなく大きな魅力を感じる。

「前大戦でも紙細工、粘土細工、木工細工、金属細工、いろいろなものを作って具現化させてみたけど、まぁ効果は限定的で使えなかったみたい」

「そうなのか。でも、そんなものをどうして作って使おうって思ったんだ?」

 前大戦の時代に使えない物だという烙印を押された具現化装置。時代と共に改良されても具現化できる物に制限があるのであれば、魅力に比例した効果のある物が具現化できるとは考えにくい。

「・・・私は、戦うのに向いてないからね」

 ローナの言葉に元気がない。

「仕事がないときに色々作って、仕事の時に短い時間でも何かが出せたら、役に立つと思ったんだけど・・・」

 美術芸術の才能が無いため、そもそも具現化する物を完成度の高い精巧な造形物として作ることができない。前大戦時代に廃れた理由の一つに躓いているのだった。

「なるほどねぇ・・・」

 前世でも時代と共に情報を入手する術が見つかり、それなりのスキルがあれば簡単な武器くらいは作れてしまう。彼女が具現化装置を作れたのはそれと同じだろう。

 このような装置を一朝一夕で作れるはずがない。おそらくローナはこの仮夫婦制度で同居するずっと前からこれを作っていたはずだ。なら、彼女が仮夫婦制度の相手に芸術屋の息子で了承したのには、この装置を使って何かが出来るかもしれないという思いもあってのことだったのだろう。

「後でちょっと貸してくれ」

「え?」

「俺も少し試してみたくなった」

 漫画家を志望していた時代に抱いていた空想を具現化したいという思い。前世では不可能だとわかっていたため諦めていたが、それが今再燃する。

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