第二十一話 騒音と正体不明の物体

 昼食を終え、行政からの仕事の依頼に付いて考えていた。材料費や制作時間だけでなく、どのようなデザインにするかなど、芸術屋の仕事は作業を始める前が一番忙しい。

「題材がざっくりとしているんだよなぁ・・・」

 題材は史実にも残っている聖女様と戦士様をモチーフとした作品、ということだけだ。二人はこの町の出身ではないが、この町にもやって来て後世に残る功績を残している。よって功績の内容やこの町の歴史なども絡めた作品にできれば良いのだが、そうなると何を堂からませていくかについて頭を使わなければならない。

「とりあえず人は二人いて、どういうポーズにするか・・・」

 作品について考え込んでいるときだった。店の中でやや大きめの音が響いた。

「な、なんだ?」

 ちょっとした爆発の音にも聞こえた大きな音。何か一大事でもあったのかと、急いで部屋を飛び出した。

「大丈夫か!」

 音の発生源はローナの部屋だった。普段なら入るのを躊躇うところだったが、今回ばかりは安否確認が優先と扉を突き破るかのごとき勢いで開け放った。

「あっ! ちょっと勝手に・・・」

 勝手に入ってくるなと言いかけ、ローナは口をつぐんだ。あれだけの大きな音を立てておいて部屋に入ってくるなとは言えなかったようだ。

「・・・何があったんだ?」

 部屋の中は荒れていた。爆発の影響か棚のものは床に散乱し、カーテンやクローゼットなども汚れていたり傷ついていたりしている。それだけでも大変なことが起こったと思うのだが、それ以上に理解に苦しむものがローあの部屋の中に存在した。

「こいつは・・・何?」

 ローナの部屋の真ん中には正体不明の白い物体がいた。白い毛皮を丸めた球体のような物体だった。生き物には見えなかったが、だからといって調度品にも見えなかった。

「何って、犬だけど?」

「・・・犬?」

 犬と言われて、犬と認識して、白い丸い物体を見てみた。

「これ・・・犬か?」

 全く犬には見えなかった。

「犬だって!」

 犬だと言い切るローナ。その声に応えるように白い物体も体を動かすのだが、その動きが全く犬と一致しない。床の上をもがくようにもぞもぞと動き、手足と思われる白い物体をもぞもぞと動かして床の上を這いつくばる。その光景は見たことのない気持ちの悪いモンスターにしか見えなかった。もしこの瞬間を映像で捉えていたとしたら、誰かに見せるときはモザイク処理が必須となるくらい気味の悪い動きだった。

 しばらく床の上でもがいていた白い物体は動かなくなり、まるで蒸発していくかのように煙となってこの世から完全に姿を消し去った。

「な、なぁ・・・さっきのあれは、一体何だ?」

 犬という説明に納得したとしても、目の前で消えたことの説明にはなっていない。何が起きたのか全くわからず、ローナに状況の説明を要求する。

「・・・犬だもん」

 しかしローナは頬を膨らませてふてくされる子供のようにうつむき、先ほどの物体が犬だと言い張っていた。

「犬かどうかはとりあえず置いておいて、だ。何が何だかさっぱりわからないんだ。順を追って説明して貰っていいか?」

 ふてくされているローナをなだめつつ、なにやら怒っていそうな部分についての話は後回しにして、何があったのかを聞き出さなければ状況の把握も何も無い。

 仕事の手は完全に止め、今は彼女の機嫌を取りつつ話を聞くしかなかった。

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