第二十話 政治派閥を選んだ理由
「とりあえず違う町に伝手がないから、それを作るところからかな」
「そこからかよ」
販路拡大どころか、知り合いを作るところから始めなければならないようだ。
「しかたないじゃない。同級生の商業派閥には頼れないんだから」
「はぁ・・・どうして政治派閥に所属したんだか」
広い視野で商売というものを考えれば、商業派閥で様々な商売をしている人達との繋がりを作っておいた方が良かったはずだ。そしてローナが普通に生きていれば、自ずとそういう道に進んでいたはずなのだ。
しかし、彼女は自ら政治派閥を選んで所属した。
「私はね。自分に商才があると思ってないから」
「は、え?」
不意打ちのようなカミングアウトに、まともに返答することすらできなかった。
「商業派閥にいても、商才が無ければいずれ相手にされなくなるから」
商売とは稼ぐこと。利益を上げられない商売人と仲良くしようと思う商売人は稀だ。
「商才が無くても堅実な経営ができていれば行政は見放さない。私は商店を大きくしたいとか、いろんな商売に手を出したいとか、巨万の富を得たいとか、そんなことは一切考えていないの。ただ、飢えることなくきちんと生きていけるか、それだけ」
自分には商才が無い。規模を大きくしてもやっていける自信が無い。それならば手の届く範囲だけの商売で手堅く安定した生活を送れる道を選ぶ。そのために政治派閥と仲良くなった、ということか。
「この仕事は政治派閥との関係性を良くして、安定した利益を得るためには渡りに船。上手くいけば成功報酬のように何年にもわたって一定の収入が得られる。この定期収入は大きいの」
商業派閥では利益が出なければ収入にはならない。しかし政治派閥では求められたことを成し遂げれば、その取引そのものが少々赤字でも変わらず成功報酬は支払われ続ける。それがローナの選んだ堅実で安定した道だった。
「でもそのせいで商業派閥の協力が得られないから、成功報酬までたどり着けるかどうかわからない、と」
「それは言わないで」
今回ローナに与えられた仕事。それは独力でなんとかなるかといえば難しい。しかし最も違う町との関わりがある商業派閥の協力を彼女は得られない。成功報酬のための道のりは険しそうだ。
「しょうがない。俺の方で商業派閥だったやつにコンタクトを取ってみるか」
「あ、トーマは商業派閥か」
「いや、俺は無所属」
「・・・え?」
無所属と言ったとき、ローナは言葉の意味が全くわかっていないようだった。
「無所属って、なに?」
「その派閥にも所属しなかったんだよ」
「え? なに? そんなことできるの?」
「できるかできないかじゃなくて、勝手にそうなったんだよ」
「そういうこと? さっぱりわからない。説明してよ」
納得のいく説明があるまで離さない。そう言うかのように、ローナは服の裾を強く掴んで何度も力を入れて引っ張る。
「わかったよ。説明するからとりあえず落ち着け」
偶然が重なり、無所属のまま上手く学校生活を終えた。ヘレノにも話した内容をローナにも同じように話す。しかし食いつき方が違い、ヘレノに説明するときにかかった時間の約三倍は取られることになった。
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