第十九話 販路拡大計画
ヘレノが残して帰った紙の束。その中身に目を通せば、行政側の置かれている状況と取りたい解決策が見えてくる。
「要は販路拡大をローナに頼みたいって事か?」
「頼みたいというよりかは、私も手段の一つってところかな」
行政の置かれている状況についてはよく知らなかった。あまりニュースを真剣に見る方ではなかったためだ。前世からこういった世情には疎かった気がする。もう少し世情に詳しくなれば、その時代のニーズに合った作品が作れていたのかもしれない。
「最近海賊が出るんだって。それで海運物流が主力だったところを陸路にも力を入れていくって方針になって、そのために陸路で荷物を運んで売れる先を探しているみたい」
「それって行政の仕事と言うより、商売人の仕事じゃないのか?」
何かを売る。そういった販路は行政の仕事のような気がしなかった。
「そうでもないよ。商売人は儲かるために色々仕入れて売るわけだけど、行政は商売人が余り手を出さないものとかも支援や援助という形で買い取ったりするの。それを買い取るだけじゃなくて売らなきゃならないから、こういう販路拡大は行政側にも必要なわけ」
その土地の名産品や伝統的な技法で作られた商品。必ずしも商売で利益が出るとは限らないものも、行政は守らなければならないときがある。そういった商品を買ってくれる客先を新たに探しているのだ。
「この町は南に商業港があるから、そこから海運輸送で行けるところに商品を売っていたわけだけど、海賊騒ぎで海路は厳しくなったみたいだね。こうなると内陸の町もこの町の港を使うための使用料とかも取れなくなるかもしれないからね」
内陸の町はどうしても海路で商品を運びたいときには港を使わざるを得ない。その使用料も立派な収入源だ。海賊騒ぎで何がどう転ぶかわからない。最悪の事態に陥る前に陸路に活路を見出しておくのは当然の判断だ。
「海賊退治はできないのか?」
「港を持っている町が総動員しても厳しいと思うけどね。人手に軍備、そして必ず海賊と遭遇するわけじゃないし、必ず勝てるとも限らないから」
「そっか、そうなると国単位の方が良かったってなるな」
この世界は前世の世界観と大きく違う点がある。それは魔法があるとかないとかもそうなのだが、一番の違いは国という概念を世界レベルで取り払ったことだ。この世界にはかつて国という線引きがあったが今は無い。世界政府が定めた領地内を各都市が各々で自治していて、都市間での闘争は世界的に禁じられている。
国という大きな線引きを取り払い、都市ごとという細分化された線引きでそれぞれが自治を行うことで戦争を無くしたのだ。
「軍備面になると規模が大きい方が事に当たりやすいからね。海賊やら山賊やらがそれなりの規模で戦力を整えちゃうと町一つの力じゃどうしようも無いよ」
自分の待ちに影響がなければ助力を得るのもなかなか難しい。大国やら小国やらがなくなったことで大きな戦争はなくなった。しかし各地であくどく稼ごうとする者達との小さな諍いは世界中に存在していた。
どちらが良かったのかはなんとも言えない結果だ。
「まだ大戦から百年も経ってないのに、世界中に魔法や科学で生み出された生物兵器が独自の生態系を築いちゃって、そっちの駆除にも力を入れないといけないのにね」
まだ百年経っていない世界を巻き込んだ大戦。世界の進化の基軸は魔法か科学か、そんな小さな言い争いから始まった魔法派と科学派に別れて戦った世界大戦。力を持ったいくつかの大国が敵対したことから起こった凄惨な戦争。戦いはほぼ痛み分けで終わり、大国という強大な力を持っていることが戦争の規模を大きくする原因の一つとしてあげられ、国という線引きを取り払った現代に繋がる。
沢山の問題を抱える現状だが、世界大戦の再発を考えれば小さな問題なのかもしれない。
「どっちにしろ、私たちはこの世界で生きていかなくちゃいけないわけだし、今自分たちにできることを考えよう」
「そうだな」
国だの世界だの、今はそんなことを気にしていてもしかたが無い。目の前の仕事をどうやって成し遂げて、どうやって日々を生きていく金を稼ぐか、それが重要なのだ。
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