第十七話 学内派閥

 領主との面会を終えて帰路につく。一人で帰るはずだったが、隣に秘書をしている領主の娘のヘレノがいた。

「仕事はいいんですか?」

「いいのよ。まだ見習い中だから応接室で案内と書類整理くらいしかさせてもらえないからね。今日は午後まで来客予定もないし、それくらいならちょっと抜け出しても簡単に終わらせられるわ」

 二世議員や世襲議員という印象のある彼女だが、持っている能力は一般人より高いのかもしれない。二世議員や世襲議員の一番の強みは身近なところで政治というものを見て育つことにある。これ以上の勉強はなく、職人達の後継者の子供や家族になる傾向が強いのは、こういった見学の時間の有無が実力に影響するからなのだろう。

「それに、卒業以来ローナに会う機会もなかったし、久しぶりに会いたいと思ったのよ」

 彼女は領主と仕事の話をしている最中、秘書という地位を利用して間との住民について調べた。仮の夫婦として同居している相手が学友のローナだと、彼女は仕事の話をしている間に調べ上げたのだ。

「それにあなたにも少し興味が湧いたっていうのも理由の一つよ」

「俺に興味?」

「ええ、あなたに・・・」

 顔を近づけてくるヘレノ。身長はこちらの方が高いためやや見下ろす形になるが、

そうするとどうしても大きな胸元が視界に入ってしまう。

「あなた、学内派閥でどこにも属さなかったらしいわね」

「え?」

 学内派閥という単語を聞いたのは卒業以来だ。学校内では伝統的に生徒同士が派閥を作り、さらにその派閥の中にも階級が設けられるスクールカーストが存在した。派閥は主に三つで「政治」「商業」「芸能」がある。両親が政治関係お仕事に就いているのならば政治派閥へ、両親が商売人をしているのであれば商業派閥へ、両親が芸能などの容姿や個人の能力での仕事をしているのであれば芸能派閥へ。それぞれ自然と別れていく。

 ローナの場合、両親が店を経営している。ならば普通は商業派閥へ所属する。ヘレノは父親が領主ということで間違いなく政治派閥。そうなると二人の接点はなさそうに思えた。

「どこにも属さなかったあなたと、商売人の娘なのに政治派閥に所属したローナ。どんな生活をしているのか興味が湧かないかしら?」

 ヘレノが帰り道についてきたのは興味本位からのようだ。

「あれ? でもどうして俺がどこにも属していなかったって知ってるんですか?」

 街の中にはいくつか学校がある。ヘレノとローナは同じ学校だったようだが、同い年なのに彼女たちの存在を知らなかった。なら別の学校のはずだ。

「あなたの同級生の政治派閥の子がいたのよね」

「ああ、なるほど」

 領主の娘で現在秘書を務めているヘレノ。いかに政治派閥出身の人間とはいえ、スクールカーストでいえば彼女は最上位。問われれば答えなければならないし、問われていなくても彼女からの印象を良くしておけば先々の出世もあり得る。

「どこの派閥にも所属しなかったみたいだけれど、芸術屋だとだいたい商業派閥か芸能派閥でしょう? どうして所属しなかったのかしら?」

「所属しなかったというか、所属する間がなかったというか・・・」

「間がなかった?」

「俺がいた学校のクラスは全部で三十四人だったんですけど、三つの派閥が全部十一人ずつになっちゃって、俺だけあぶれちゃったんですよね」

「あら、珍しいわね。偏るのが普通なのに」

 偶然も偶然だろう。政治派閥、商業派閥、芸能派閥。三つの派閥に所属する人数がぴったり揃ったのだ。そして残ったのが商業派閥と芸能派閥のどちらに所属するか微妙な芸術屋の息子。商業派閥と芸能派閥は勧誘合戦を繰り広げ、政治派閥はその合間を縫ってかすめ取ろうと画策した。しかし均衡が破れることはなく、逆に一人だけ余っているという状況が日常になったのだ。

「色々あって、結局一人余りっていうのがクラスのバランスとして良かったんですよ」

「クラス内でも最多数の派閥の発言権が強いものね」

 学内行事ではだいたい三派閥での主導権争いとなる。そのため数的有利の派閥がどうしても有利になる。そのため毎年各クラスでは最多数の派閥となるために様々な駆け引きが行われているのだ。

「ふふ、ますます面白そうね。ローナと会うのと、あなたの仕事場も見せて欲しいわ」

「えっと、見せられる範囲であれば・・・」

 特にやましいことは無いので仕事場に入れることくらいは問題ない。だが漫画はしっかり引き出しに隠していたか、それだけが気になった。

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