第十四話 仕事の話の間

 荷物を持って訪れた先は武具などの加工を取り扱う職人の工場。職人兼経営者でもある工場の主の中年男性とローナが仕事の話をしている。あまりそういった話が得意ではない為、半ば聞き流すようにただ同席しているだけだった。

「あ、こら、ダメでしょ」

 話が早く終わらないかと時間が過ぎるのを待っていたところ、幼い子供が近づいてきた。少し遅れて先ほど挨拶した工場の主の奥さんが子供の手を引いて離れようとする。どうやら仕事場に入ってしまった子供を連れ戻しに来たようだ。

「すみません」

「いや、気にしないでください」

 子供のしたことにいちいち目くじらを立てる必要も無い。笑って済ませようと思っていたが、子供の持っている物に目がとまった。

「あの、工場の外に廃棄する木材ありましたよね?」

「ん? ああ、あるけど、どうかしたのかい?」

「少しいただいてもいいですか?」

「それはかまわないが・・・」

 工場の主は何をするのかを聞きたそうにしていた。一方ローナは話の邪魔をするなと睨み付けてくる。ここにいても発言するつもりはないため、一言断ってから席を立った。そのまま工場の外へと出て行き、手頃な大きさの木材をいくつか見繕う。

「こんなものかな」

 ちょうどいい大きさの木材を手に取ると工場の中へ、向かう先は工場の主とローナが話している部屋ではなく、何人かの従業員がいる作業場だ。

「これ、借りられますか?」

「あ? 別にいいけど、何をする気だい?」

「まぁ、ちょっと作りたい物があって」

「作りたい物?」

 作業場で借りたのは小さなナイフ。手に持った木材をナイフで手早く削り始める。完成図は頭の中にある。ナイフは取り扱いしやすいもので、木材も削るのに難しくない固さだった。前世では小遣い稼ぎの為のちょっとしたグッズを作るつもりでこういうことをやっていた。その時の感覚のせいか、目をつむっていても八割方は完成させられそうだった。

「は、早い・・・」

 気を削る細かな作業の手早さはこの工場の職人も驚くレベルのようだ。年に数回行われる同士達が集まる祭典で、客寄せ兼リクエストで木彫り細工を作ったこともあった。限られた時間で手早く上等な物を作る経験は積んでいる。その当時の感覚を呼び起こしながらの木彫り細工は、時が経つにつれて速度を上げていった。

「こちらのヤスリも借りていいですか?」

「ああ、かまわねぇよ」

 数人の職人が木彫り細工の完成を待つように、完全に作業の手を止めて見ている。その期待に応えるように、最期にヤスリ掛けをして、手作りの木工品は完成した。

「おいで」

 遠くでこちらを見ていた子供を呼び寄せる。駆け寄ってきた子供に笑顔で木工品を手渡した。

「わぁ・・・お馬さんだ」

 一部リアリティを追求し、一部かわいらしさを追求するためにデフォルメした馬。木彫りの馬を手にした子供の純粋な笑顔は実に可愛らしかった。

「ママ、お馬さんだよ」

「すみません、こんなものまで作っていただいて」

 喜ぶ子供と申し訳なさそうにする母親。子供は喜ばしてあげたかったが、母親を恐縮させたままなのは良くない。

「いや、気にしないでください。仕事の話が終わるまで暇ですから」

 廃材をもう一つ手に取り、今度は子供に尋ねる。

「他に何か作ろうか?」

「ほんと?」

「ああ、その子の友達は多い方がいいだろ」

 子供が持っていた木彫りの人形。その仲間を作ってあげれば喜んでもらえるだろう。そう思っただけだ。ただ待っているだけでは暇だし、時間も廃材も無駄にしないで子供に喜んでもらえる。特に収入にはならないが、いいことをした後というのは飯が美味くなる。それくらいの気持ちで、時間の許す限り子供のリクエストのものを作っていた。

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