第八話 初めての外

 翌日の早朝、早々に旅支度をして店を出る。小さな護身用の拳銃といくらかの予備の弾に、これまた護身用のナイフ。あとは水と軽食が入っただけのスカスカの大きな鞄。帰りに素材を入れて帰って来るためにスカスカにしているが、出発の際に鞄がスカスカなのは心許ない感じがした。

「じゃあ行くよ」

「ああ、それでどうやって行くんだ?」

 交通手段はどうなっているのかが気になった。ここは異世界だが機械系の技術も存在する。車やバイクのようなものもあるし、異世界と言うことで馬なども存在する。当然タクシーのように人を運ぶ職業もある。

 それらの中の何を使うのかが気になったのだが、帰ってきた言葉はそのどれにも当てはまらなかった。

「歩いて行くけど?」

「・・・は?」

 返答は出てこなかった。言葉にならなかったのだ。

「一日で行って帰ってこられる距離だし、乗り物を用意するお金はない。それに用意できても免許持ってないからね」

「う、免許・・・」

 乗り物に乗るには免許が必要。それは常識だ。乗り物に乗って自らが運転する機会は今まで無かったし、これから早々あることでは無いと思っていた。年齢も若いし、急いで免許を取得する必要があるとは考えていなかったのだ。

 ゲームの序盤でも多少の距離は面倒でも歩いて行かなければならない。それが自分の身に現実となって降りかかってくることになるとは思いもよらなかった。

「ほら、わかったら行くよ」

 ローナに背中を押されるように間との外へと歩いて行く。まだ人通りが少ない早朝の町を二人で歩いて町の外を目指す。待ちの外までもけっこうな距離があるのだ。

 前世では車の免許は持っていた。この世界でも利便性のため、乗り物の免許は取る必要があると強く感じた。そのためには資金も必要になる。ならばもっと働かなければならない。

「はぁ、労働は尊いな」

 異世界に来てまで仕事とお金に悩まされる。前世では考えもしなかったことだった。

 早朝に店を出て、町の外に出る頃には日も高くなっていた。すでに歩き疲れていたが、これから舗装されていない野山を歩くことになる。こうなるとますます免許と乗り物の重要性を思い知らされる。

「目的地はこの先の山の中腹辺りの川辺ね。そこにだいたいはいるみたい」

「それって、いなかったらどうするんだ?」

「んー・・・一晩待つか、明日も出直すか?」

 今日絶対に見つかってくれと、なんなら道中で見つかってくれと、心から神頼みした。

 そんな神頼みもむなしく、太陽が真上を通過する頃、ようやく目的地付近にたどり着いた。

「ちょっと・・・休憩・・・」

「また? さっき休んだばかりじゃないの」

 普段どころか、前世から歩きでの遠出などほとんど経験が無かった。長時間移動も車や公共の交通機関を使っていた。そのため自らの足で長時間歩きつめるという経験は前世まで遡ってもほぼ初めてだった。

「遠出は慣れてないんだよ」

「もう、じゃあちょっと様子見に行ってくるから、獲物がいたらすぐ行くからね」

 見つかってくれという神頼みをした後だったが、もう少しだけ休憩時間を置いてから見つかって欲しい。わがままだとわかりながらも、願いの内容が少し変わっていた。

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