第9話 夏休み前⑧

「ところで先輩は何を頼むんですか?」


跳ねていた先輩がピタッと止まった。

しまった、思ったがもう遅い。


三つ編みを揺らし、こちらに勢いよく振り向く。


「よくぞ聞いてくれた! 勿論!! 『月刊ラ・ムー』の最新号だ!」


先輩は嬉しそうに続ける。


「今号の特集はすごいぞ!!『上半期 謎の飛翔体 TOP3』『絶対に当たる占星術』『聴いた人間を狂わす嵐の怪電波』『フライングフィッシュを爆釣する謎の老人』……どれも胸躍る企画の数々だろう!? 」


始まってしまった。

どうやら先輩のオカルトスイッチを押し上げてしまったようだ。


「明屋後輩は先月号までしっかり読破しているだろう故、今更聞くまでも無いだろうが敢えて今号に向けた期待を語らせてほしい!」


余程嬉しいのか三つ編みが子犬のしっぽのようにぱたぱたと揺れている。


「占星術とは古来より月や星など天体の動きからこれから起こる出来事を予測する学術だ。今では星占いなどで運勢や相性を視るのがポピュラーだが、かつては先人たちにより国家の政さえ左右していた。占星術を極めることができれば……未来予知が可能となるも同然なのだ!!

 電波も面白い。音波・電波問わず波長というものは人の体調や精神に作用することは科学的にも立証されている。もし人を狂わせたり、逆に楽しませるような波長が分かったのなら……人を操り世界の支配者となることもできるだろう!!」


すごく早口でまくし立て、ふっふっふ、と不敵に先輩が笑う。


「そしてフライングフィッシュ………」


確か空中を高速で泳ぐ魚のような生き物ーーーいわゆる未確認生物だったはずだ。 

カメラに写った残像との説もあるが、このフライングフィッシュは果たして我々にどうような恩恵を与えてくれるのだろうか……!?


息を呑み、先輩の言葉を待つ。


しばし間が空き、先輩が口を開く。



「フライングフィッシュは…ちょっと釣ってみたい!!……………かも」



頑張っても思いつかなかったようだ。


先輩の努力を称え、そうですね、と適当な相槌を打つに留めた。

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