第8話 夏休み前⑦
校舎の一階に降りる。
満艦飾先輩は行き先こそ伝えなかったが、言動から予想はついた。
特定購入物申請書を出せる場所は校内で一箇所しかない。
夏休みに沸き、いつもに比べて賑やかな廊下を進み目的地を目指す。
職員室に隣接する視聴覚コーナー。
普段な人もまばらなここも夏休み前とあって多くの生徒で順番待ちの列ができている。
案の定、先輩の姿もそこにあった。
「明屋後輩、すまないがしばし待ってくれ」
明屋に気づいた先輩が、申し訳なさそうに両手を合わせる。
先輩の前には順番待ちの生徒が四人。
順番が回ってくるのは多少時間がかかりそうだ。
「この時期だけでも…パソコンを増やしてはくれなだろうか」
待ちきれないのか、先輩は横から見たりぴょんぴょん跳ねてみたりと落ち着きがない。
その度に編おろしたグレージュの髪が元気に揺れている。
順番を待つ生徒の前には1台のPC。
かなり年期が入っているのか、箱型の筐体は全体的に黄ばんでおり、ディスプレイには横線が奔っている。
特定購入物申請ーーーーー生徒や教師からはもっぱら特購と呼ばれるが、鉛筆や参考書、制服や指定の水着など生徒個人で使用する教育用備品や消耗品は、この校舎内に1台しかないこのPCでのみ申請手続きをすることができる。
通常、申請物は一ヶ月ほどで手元に届くが
夏休み中は校舎が閉まるため、今日を逃すと休み明けの9月まで申請ができず、さらに手元に届くのは10月ごろとなってしまう。
そのため、夏休み前の今日は駆け込みの生徒でいつもより混んでいるのだ。
学校側でまとめて申請しないのは生徒の自主性と計画性を伸ばすためらしいが、海士曰く「教師がサボりたいだけだろ」とのこと。
明屋もそう思う。2票。
「先生がまとめて出してくれればいいのに…」
先輩もぴょんぴょん跳ねながら不満を漏らしている。これで3票だ。
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