第32話 まっくら
マミの頬に涙が流れるのを見たユキは、拍車をかけてマミに攻め寄る。
「どうしてマミが泣くの? 悲しいのはウチの方だよ? マミには何も知らされてなくて、ルカに嘘つき呼ばわりされて、ウチ、被害者じゃん。 泣けばいいってことじゃなくない?ちゃんと説明してよ」
マミはパニックになっていた。
嘘がバレてしまい、もう取り返しのつかない状況になっていることに、自分の中の処理能力が追いつかない。なぜ自分が泣いているのかも分からない。
そして何より、自分の魂が大人であること、未来を変えるためにやってきたことなんて絶対に理解してもらえない。
マミは、更に激しくなる動悸と息苦しさと頭の痛さで、その場にしゃがみこんでしまった。
「……説明しても、何も信じてもらえないよ。……もう、こんなことになるなら、最初から、何も変えなければ、誰も傷つかないで、済んだのに。はぁ、アタシだけ、アタシだけがまた傷つくんだ――」
たどたどしく話していた途中、マミは急に目の前が暗くなり、その場に倒れこんでしまった――。
***
――マミは目を開けると、そこは自室ではなかった。
頭がぼうっとする。
マミは布団に包まれていた。
辺りを見渡すと、保健の先生が窓際のイスに腰掛けてスマホを見ていた。
歳は明かされていないが20代後半くらい。茶色く長いストレートヘアが特徴で、薄化粧をしているが顔立ちがはっきりしているため男子生徒からも人気の高い美人教師だ。
「あ、起きた? 良かった~、このままずっと寝ちゃってたらどうしようかと思ったよ~」
保健の先生は心配そうな顔をしてマミに近寄る。
「先生……、アタシ、なんでここに……」
「聞いたところによると、ベランダで急に倒れちゃったみたいで、近くにいた……えっと、ユキちゃん? が急いで知らせてくれて、ここに運び込まれたの。ちゃんとユキちゃんに後でお礼言いなさいね」
先生はマミにニコっと微笑む。
マミは改めて辺りを見渡すと、確かに部屋は他の部屋よりも若干狭く、大人数が入るような部屋ではなさそうなことが分かった。どうやらここは救護室のようだ。
(そっか、アタシ、急に目の前が真っ暗になって、それで……)
マミはその前に何が起こっていたかを思い出した。ユキに嘘がバレてしまい、めまいがして倒れてしまったのであった。
「あ、あの、先生も、看病してくれてありがとうございます。
「どういたしまして! 元気そうで本当なによりだよ~」
「あ、はい。そ、それで、ユキは……」
「あぁ、ユキちゃんなら、こんな時間だしもう寝てるんじゃない?」
「え? 今って何時ですか?」
「今、夜中の2時前だけど……」
(あれ、2時って……。カケルと約束してた時間も、確か……)
マミは、カケルから渡されたメモ帳に、午前2時に大浴場で待ち合わせをすることが書かれていたのを思い出した。
「ええええええ!!! もう2時ですか!? すいません、アタシもう行きます!」
マミはガバっと毛布を持ち上げ、勢いよく布団から飛び出した。
「え? でも、もうこんな時間だし朝までここで寝ていっても――」
「――いや、大丈夫です! アタシ、やり残していることがあるので!」
「やり残してるって言っても、もうこんな時間だし、部屋に戻っても迷惑だから作業とかしちゃだめだよ?」
「はい、大丈夫です!みんなには迷惑かけません!」
「ん~、それならいいけど……。先生、部屋まで送っていこうか? 夜だし何かあったら――」
「――いえ、大丈夫です! アタシ、深夜残業には慣れているので!」
「え、深夜残業?」
思わず社会人時代の言葉が出てしまった。
「――あ、あああ、何でもありません! では、先生、ありがとうございました!」
マミはそそくさと玄関でスリッパを履き、救護室を飛び出していったのであった。
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