第31話 どうして?
(え、何でルカが泣いてるの? ……もしかして、もうあの場で告白でもして振られた!?)
マミは気になって再び食事に集中できなくなった。
「……マミ? さっきからあっちの方見てるけど、どうしたの?」
ようやくユキがマミの目線に気づき視線を向けると、そこには号泣しているルカが。
「え……ルカ、泣いてる。どうしたんだろう?」
ユキも一緒になってそわそわし始めた。
しばらく見ていると、ルカは目に両手を当て泣きながら席を立ち、小走りで会場の外へ出ていってしまった。
「え、ルカ、本当にどうしたんだろ!? ちょっとウチ、様子見てくる!」
ユキはルカの後を追いかけ、同じく会場を出ていった。
(なんだろう……胸騒ぎがする……)
マミは恋敵であるルカの後を追いかけるような気にもなれず、一人で悶々としたまま食事を済ませたのであった。
マミが部屋に戻ると、ユキが何やら困惑した顔で、窓際の椅子に座ってうつむいていた。
「マミ……。ちょっと話したいことがあるんだけど、部屋じゃ話しにくいからベランダに来て?」
マミたちが泊まっている旅館には小さなベランダが備え付けられていた。
教師たちには危ないからベランダには出るな、と注意されてはいたが、ユキはそれどころではなさそうな様子だ。
「う、うん。……どうしたの? ルカ、何か言ってた?」
ベランダに移動しながら、胸騒ぎが収まらないマミは不安を必死に隠しながらユキに尋ねた。
ユキは、どうやらうかない顔をして遠くの景色を眺めている。
「……マミ、どうしてルカに嘘付いたの?」
「……え?」
「ルカがね、嵐山に行くってマミから聞いたんだって」
嵐山。
マミがルカに対してついた嘘だ。だが、この嘘は後でルカにも説明して謝っている嘘でもある。
マミは、この件はすっかり解決しているものだと思っていた。
「……その話、聞いたんだ。……うん、嵐山に行くかも、って言った。でも、ルカには嵐山には一緒にいけないこと、後で謝ったよ?」
「そうじゃなくて」
ユキが振り向いて隣のマミを悲しげな目で見つめる。
「……どうして、ルカに行きもしない嵐山に行くかもって、嘘ついたの? ウチら、ルート決めるとき、嵐山に行くなんて話してなかったじゃん!」
核心をつく部分の嘘が、ルカにバレてしまっていた。
「――ビュッフェ会場、ルカがカケルくんの前の席に座ってたんだって。それで、次の日の班行動の話になって、ルカが嵐山に一緒に行けなくて残念だって言ったんだって。そしたら、嵐山に行くって話は班でもしてない、ってカケルくんに言われたって……。ルカ、マミに裏切られたと思ったんだって」
マミは返せる言葉が見つからず、黙り込んでユキの話を聞いている。
「……でもね、それだけじゃなくて。マミがそういう嘘をついたから、ウチらがルカのことを省いてるって思ったんだって。せっかく修学旅行で一緒にウチらと行動できるって楽しみにしてたのに、それが裏切られたって思ったんだって。そう思ったら涙が止まらなくなっちゃって、一緒の席にいられなくなっちゃって、会場を出て行っちゃったんだって……」
ユキは淡々とルカから聞いた話をマミに説明し続ける。
「ウチがルカを追いかけていったとき、追いついて話しかけようとしたら、ルカに『嘘つき!』って言われた。……ウチ、嘘、ついてないよ? マミがルカにそんな嘘ついたなんてウチ、知らなかったよ? なんでルカにウチが怒られなきゃいけないの? ウチはルカの親友だよ? ……事情を聞いて、マミがやったんだなって分かったけど。マミ、どういうつもりでそんな嘘付いたの?」
ルカが悲しげな表情でマミを見つめる。
マミの顔が青ざめていった。
嘘がバレてしまったこと、ルカに公の場であんな醜態を晒させてしまったこと、嘘を付いたことでルカだけでなくユキまでもを傷つけてしまったこと、1つの嘘がここまで広がってしまっていたことに、申し訳なさと後悔、罪悪感がどんどん湧いてきた。
動悸が止まらない。心臓の音がバクバクと聞こえる。頭に血が登ってくる。首の裏が熱くなってくる。唇や手が震えだす。
「……ごめん」
返す言葉が見つからず、マミは絞り出すようなか細い声でぼそりと呟くと、緊張の糸がプツンと切れ、気づけば涙がとめどなく流れてきた。
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