第25話 コジカ

 教師陣の話が終わった。


 生徒たちが一斉に散り散りになっていく。

 マミは、恋のライバルたちよりも先にカケルに声をかけ、「一緒に回ろう」と告げようとした、その時だった。



「おい、カケル! あっちにでっけぇシカがいるぞ! 餌やりに行こーぜ!」


 大野がカケルに声をかけ、腕をカケルの肩にかけてぐいっと引っ張って行ってしまった。


(あぁ、そっか! そもそもカケルには男友達が周りにいるし、基本一緒に行動するだろうから、ルカもユキも近寄りにくいか! 公園ではそこまで気にしなくて良いかも……)


 マミは少しホッとしていると、マミは後ろから服の袖をクイクイっと引っ張られているのを感じた。

 振り向くと、ユキが「マミ、一緒にシカさん触りに行こ?」と笑顔で声をかけてきた。


「う、うん! そうだね、アタシたちも行こっか!」


 マミも笑顔になり、2人は餌用のせんべい屋さんに向かって歩き出した。


(せっかくの修学旅行なんだし、楽しまなくちゃ!)




 せんべいを購入した2人は、子ジカに餌やりをして和んだ。

 ルカは「うわぁ、シカさんの毛って意外とゴワゴワしてるんだね~。もうめっちゃかわいい~」と言いながら、ひたすらなでなでしている。


 マミは餌をやりながら周りと見渡していると、近くで「うわぁ! ペロペロ舐めんなよ気持ち悪ぃ!」と叫ぶ小野寺の声と、それを見て笑うカケルと大野の声が聞こえた。

 

「あ、カケルくんたちだ! お~い!」


 ユキは声が聞こえた突端、シカを愛でるのをピタッと止めると、カケルたちのもとへ小走りで向かっていった。


(しまった! 先越された! アタシもあっちに行きたい! でも、まだ新しいせんべいあげたばっかりだし、この子まだぜんぜん食べ切れてないし、行きたいけど行けない! あぁ、ちょっと待って……!)


 マミはこのタイミングで責任感の強さが無駄に発揮されてしまっていた。


「ユキ! ちょっと、アタシを置いていかないでよ~!」



 ユキの声に気付いたカケルは、「おぉユキ! 今、小野寺が顔面シカのよだれまみれになっててさぁ」などと笑いながら話しかけ、ペラペラと二人で話しはじめた。


(くぅ~、ユキ、アタシとこっちの子ジカのことなんか気にもしてない! 後で仕返ししてやる……)


 マミは置いていかれたイラつきと嫉妬心に駆られながら子ジカを撫でていると、ユキがマミの方を指さして、カケルたちに話していた。


 すると、カケルたちがマミの方に寄ってきた。


「おいおいマミ、どんだけそのシカと仲良くなってるんだよ、連れて帰る気か? てか、このシカ、ちっちゃくて可愛いなぁ」


(カケルから話しかけて来てくれた! ユキ、ナイス誘導! ユキ許す!)


 マミは子ジカを撫でながら「可愛いでしょー、この子、アタシになついちゃってさぁ」と笑顔で返事した。


 みんなで他愛もない会話をしていると、大野が「うっわ~」と声をあげ、少し遠くに離れたシカの群れを指差した。


「うわ、あそこ、いろんなシカがたくさん集まってる! 何であんなにシカがたくさん群がってるんだろ」


 小野寺はよだれまみれの顔をフェイスペーパーで拭きながら「うわ、すげえ! シカだまりできてるじゃん、おもしれぇ!」とケラケラ笑いながら「ちょっと見てくるわ」とシカの群れに向かって走っていった。



 しばらくすると、小野寺が走って戻ってきた。


「おいおい、あの輪の中、よく見てみたらうちの制服の女子がシカに囲まれてたぞ。あいつら、あの群れから出れるのかな」


「マジ? もしかして、助けてあげたほうが良いんじゃね?」


 大野はそういうと、小野寺と共に群れへ向かっていった。

 カケルも「俺も見てくるわ」と2人についていく。


「マミちゃん、ウチらも見てこよう」


 ユキはマミに声をかけると、マミも餌やりをやめて子ジカに手を振り、男子たちについていった。



 群れに一同が到着すると、群れの中心で「怖いよぉ! 誰かー、助けてー!」と叫ぶ声が聞こえた。


 それは、ルカの声だった。



「ルカ!」


 カケルはぐいぐいとシカをかき分け、群れの中心に入っていった――。

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