第24話 乗り越えるシカ
いつも自分が予期しないタイミングでいきなり現れるトシゾウ。
マミはビクりと身体を震わせ、顔も引きつり「うわぁ!」と思わず声を上げそうになったが、口を両手で抑えて必死で声を殺すと、トシゾウはひひっと引きつり笑いをしながらマミに話しかけた。
「マミさん、私のこと呼びました? 全開は睡眠の質の妨げになるから帰れとか言ったのに。もしかして私のこと、求めます?」
マミは驚いた表情のまま、とりあえずうんうんとうなずいた。求めている訳ではないが、アドバイスがもらえるならと細かい部分はスルー。
もちろん周りにはトシゾウの姿は見えていない。
「そうですか、嬉しいですね、ありがとうございます。こんなにも求めてもらえているなんて。何百年ぶりだろう」
トシゾウの年齢はいくつなんだ、と疑問に思ったが、そこも今はスルーすることにした。
「マミさん、恋のライバルが増えて大変そうですもんね。いやぁ、まさかユキさんもカケルさんの恋敵になるとは。しかも嘘までついちゃって。運命って面白いですねぇ。ひひっ」
のんきに話すトシゾウにマミはイラついて睨みを効かせると、トシゾウは「そんなに見つめないでくださいよ」と見当違いな返答をした。
「まぁまぁ、落ち着いて。前にも言いましたけど、私はね、これから先に起こることは言えないんですよ。なので私から言えることは、マミさんはこれから起こりうる自分の運命を乗り越えていくしか道はない、ということです」
トシゾウは淡々と話し続ける。
「大丈夫です、マミさんの思考回路は大人なんですし、トラブル対応は生前の職場でよく経験していたでしょう? 冷静にこなせば、大丈夫です。マミさんならきっと、乗り越えられますよ」
久々にトシゾウが良いことを言っている気がしたマミは、意外とこのおじさんは良い人なのではないか、と思った。
「おや、もうすぐバスが目的地に到着するみたいですね。それではマミさん、頑張ってください。この先もっとひどいことが起こっても、挫けないでくださいね。ひひっ」
そう言い残すと、トシゾウはフッと姿を消した。
(ん、この先もっとひどいことが起こっても、ってことは、この先もっとひどいことが起きるってこと……? あのおじさん、もしかしてフラグ立てた……!?)
アドバイスをしながらも、ちゃっかりフラグを立てて消え去るトシゾウにマミ腹が立って不安になったが、とにかく自分でなんとかするしかないんだ、と腹をくくることにした。
程なくして、バスは目的地の奈良公園に到着した。生徒たちの興奮は最高潮になり、浮足だって我先にとバスの降車口へと向かっていった。
「マミ、やっと始まるね! 修学旅行、楽しもうね!」
バスに酔わずにすんだユキはルンルン気分でマミに話しかけると、「行こ行こ!」とマミを降車口へ向かうよう急かした。
「……うん、そうだね。楽しもう!」
マミは意を決してバスから降りると、バスのドア付近で「ピィー」と泣く野生のシカたちがお出迎えしてくれた。
野生のシカたちにお出迎えされたマミたち一行は、また広場にて教師陣から注意事項を聞いた。
1日目は奈良公園を散策したあと、同じバスで法隆寺に向かい、見学後に旅館へ到着する手はずとなっている。
この日はクラス行動となっていたが、奈良公園は制限時間内であれば自由散策OKとのことで、基本はクラス単位で動きつつも、生徒たちが散り散りになって動くことを許可された。
(この修学旅行中にできるだけカケルにアプローチして、カケルがルカとかユキに告白されてもブレないようにさせなくちゃ!)
マミは教師陣の話を聞きながら、虎視眈々と、カケルにアタックすることに決めた。
そして、この修学旅行は友人として付き合うのではなく、ライバルたちとのカケルの争奪戦であることも、改めて自覚するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます