第23話 ちょこん

 マミとルカがカケルについて話していると、新幹線内でアナウンスが流れた。もうすぐ京都に到着するようだ。


 生徒たちは自分の荷物整理やシートの整理などに勤しむ。それにつられてマミやルカも話を止め、身支度を始めたが、マミは悶々としていた。


(あぁ、また嘘付いちゃったよ……。ルカに続いてユキにも嘘付いちゃうなんて。親友になんてことしてるんだろう。こんなはずじゃなかったのに、こんなに過去からねじ曲がっちゃって、アタシの運命、どうなっちゃうの……?)


 マミは後悔が止まらない。

 そして、ルカだけでなく、ユキまでもが恋のライバルとして現れてしまったことに対しても動揺している

 どう動けば誰も傷つかずに済み、カケルをマミのものにできるのか。ひたすら考えても、なかなか答えは出てこない。



 一同を乗せた新幹線は無事京都駅に到着し、生徒たちは一斉に降りていった。

 一緒に降りたユキがマミに他愛もない話を振ってくれているが、マミは上っ面な返事しかできない。

 

 広場に集まると、教師陣から無事京都に到着したことと、これからの行動に対しての諸注意があった。

 だが、マミは上の空で一切話しが入って来ない。


 何が話されていたのかも分からないまま、クラス毎に分かれて大型バスの待機所に向かう。大荷物を一時的にバスへ預けて乗り込み、一同は最初の観光地である奈良公園を目指し出発した。



 バスに乗っても考え込んでいる暗い表情のマミを見て、窓側の席に座っているユキが心配して話しかけてくれた。


「ねぇ、マミ、なんかさっきから急に考え事してるみたいだけど、大丈夫? ……あのさ、また聞いちゃって悪いんだけど、やっぱり酔い止めの薬なんて持ってないよね……?」


 あはは、と尋ねるユキの顔も見ずにマミは「うん、大丈夫だよ、酔い止めは、ないやごめん」と返すと、また黙り込んでしまった。


「……あー、もしかして、ウチのカミングアウトを聞いたから、どうやったらウチがカケルくんと上手くいくか考えてくれてるんでしょ? ……さっすが、マミ! そんなことまでしてくれなくていいのにー」


(……いや、その逆だわ! むしろ上手くいかせないようにするにはどうすればいいか考えてるんだけど! やっぱりユキもカケルに矢印が向いちゃってるし、ああ、もうどうすれば……)


 拍車をかけるようなユキの勘違いに、マミのいらだちも積もっていく。


(……そうだ! もしかしたら、寝たらまた夢にトシゾウが現れて、何かしらアドバイスしてくれるかも!?)


 もう頼れる人はトシゾウしかいない、困ったときこそ、身近で見てくれているトシゾウにアドバイスを乞うしか無い。

 マミは、忌み嫌っていた人にもアドバイスを聞かないと落ち着かないくらい、切羽詰まっていたのであった。



「ユキ、ごめん、……ちょっと疲れちゃった。これからもいっぱい動くと思うから、奈良公園に着くまで寝ててもいい?」


「えー、どうすればいいか一緒に考えてくれるんじゃなかったの~? でもマミは班長だし、この後も色々やってもらうから、体力回復しておきゃなきゃいけないよね。ごめんごめん、寝てて大丈夫だよ~」


 ユキはよく勘違いをするタイプだが、プラスに働くときとマイナスに働くときの差が著しい。今回は勝手にプラスに働いてくれたようだ。

 ユキはニコっと微笑むと「やばい、気持ち悪くなってきた……」と窓の遠くの景色を眺め始めた。


 マミは「ごめんね、ありがとう」とお礼をすると、目を瞑って無理やり寝ることを試みた。



 だが、もうすぐ修学旅行が始まる、という周りの生徒たちのテンションの高まりと、浮足立った会話が飛び交うバスの中では、うるさくてなかなか寝付けない。


 魂は大人のマミにとって、中学生がワイワイと騒いでいる意味がもはや理解できず、あまりのうるささに怒りと焦りからイライラしていた。


(あぁもう、うるさい! みんな黙ってくれないかな、なんでバスの中くらい静かにできないの? 先生も注意してよ! なんでアタシらだけしか怒らないの!)


 ワイワイとざわつく車内。シカだの寺だのと浮足立つ声。ケラケラと飛び交う笑い声。


 もうすぐ目的地に到着してしまうのでは、という焦りから、どうにも堪えきれず、マミの我慢が限界に達した。

 


思わず「うるさい!」と叫ぼうと目を開けて通路側を向いた、その時だった。


マミの隣の補助席にあたる部分に、トシゾウがちょこんと空気椅子で座っていた。

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