第20話 夢の中まで
一行は電車を降りると、一度東京駅の広場に出て教師陣から点呼を取られ、諸注意を受けたあと列になって新幹線の改札口を目指した。
新幹線では、男子側の席と女子側の席できっちり分かれて座ることになっており、マミは車両の中で最後尾の席。ユキが隣で一緒に座ることになっていた。
周りの子たちは初めて新幹線に乗るような子も多くはしゃぐ中、マミは落ち着いている。
社会人になってからは出張で月に1回は東京―大阪間を往復しており、日帰りで朝早くから乗車して深夜に帰宅する、というハードワークの日々を思い出していた。
(いつも新幹線でひたすらパソコン開いて仕事して、返す連絡が無くなったらすぐ仮眠を取って眠気飛ばして、の繰り返しだったなぁ……)
新幹線に乗車すると、マミは慣れた手付きでリクライニングを倒す。
窓際の席でまだ少し青ざめた表情のユキは「ねぇねぇどーやるの?アタシも寝たい、助けて助けて~」とマミに懇願してきたので、丁寧にやり方を教えると、驚きと安心の表情でシューッとリクライニングを倒し感動していた。
昨夜から思いがけないような出来事も重なりつつ、朝も早く、不測の事態にくよくよと悩んでいたマミには眠気が襲ってきており、だんだんまぶたが重くなり、気付いたら目を瞑って深い眠りに落ちていったのであった――。
***
――マミは気づくと、目の前が真っ暗の空間にぽつんと一人立っていた。
(あれ、ここどこだろう……。暗いし、眠いし、何も見えないし、アタシ何しているんだろう……)
すると、暗闇の中からぱちぱちぱちぱち、と聞き覚えのある乾いた拍手の音が聞こえてきた。
(この拍手の音、聞き覚えある。あれ、この音ってまさか……)
マミは思い出そうとしていると、暗闇から、じゃらじゃらと首に大きな数珠を巻きつけた浴衣姿のトシゾウがぬぅっと現れた。
「うわぁ! びっくりした! 待って、アンタが現れたってことは、もしかしてまたろくでもないことが起きるんじゃ……。てか、ここどこなの? アタシに何する気!?」
マミは最初にタイムスリップした公園で、トシゾウからひどい辱めをうけたことを思い出し警戒した。
だが、そんなマミを見てトシゾウはひひっと引きつり笑いを浮かべると、マミの質問をいなした。
「いやいや、そんなつもりありませんよ。最近マミさんとお話出来てなかったんでね。マミさんが眠っているタイミングで、マミさんの夢の中にお邪魔させていただきました。」
「アタシの夢の中? え、アンタって人の夢の中にまで現れるの? ……アタシはしっかり眠りたいの。睡眠の質の妨げになるからお帰りください」
しっし、とマミは手でトシゾウを遠ざけるように払っている。
「いやぁ、相変わらずあたりが強くてひどいなぁ、マミさんは。そんなことより、マミさん、過去はどうですか? 楽しいですか?」
「ひどくないわ、アンタの方がひどいわ! ん~、確かに懐かしくて楽しいけど、今までと過去が違う流れになってて、正直不安って感じかも……」
それを聞くとトシゾウは、ひひっと更に引きつり笑いをした。
「それは当然でしょう。だってマミさん、嘘を付いて過去を変えようとしてるんですもんね」
「――は? まぁ、そりゃあそうだけど。……アンタもっと優しい言い方出来ないわけ?」
「ひひっ。思い通りに行かないのが人生です。あなたが過去に死ぬまでだってそうだったでしょう? 思い通りに行かなかった後悔があるから、今の自分があるんですよ。これからも一筋縄じゃいかないことはたくさんあるでしょうね」
「確かに、言われてみればそうなんだけど……。てかアンタ、アタシが今まで何をしてきたか分かるんでしょ? てことは、これから起こるアタシの未来も見えるんじゃないの? だったらこの先どうなるか教えてよ!」
マミはトシゾウにズンッと歩みを進めて近寄る。
「ひひっ。それは教えられません。未来は新しく作られていくものなのです。せっかく過去に戻って来れたんですから、それだけでも充分じゃないですか」
トシゾウは引きつり笑いをやめ、真顔になった。
「マミさんが、これから自分の運命を乗り越えていくのを楽しみにしていますよ。久々にお話できて嬉しかったです。それじゃ、頑張ってくださいね」
トシゾウはそう言うと、今日一番の引きつり笑いをし、首に下げた大きな数珠を手に取り、じゃらじゃらと数珠をこすり合わせながら目を瞑ってぶつぶつと念仏を唱え始めた。
すると、暗闇の中でマミの身体もどんどん薄くなっていった。
「ちょっと! どういう話の切り上げ方してんの! 一方的に終わらせないでよ、自己満すぎるでしょ! てか、アンタが念仏唱え始めるとアタシの身体がどんどん薄くなっていくから怖いんですけど! デジャブなんですけど! ねえ、待ってよ! アタシこれからどうすればいいの!? ねえ! ねえってば! いやあああああ……」
マミの声はだんだん小さくなっていき、やがて声が消え、そして身体ごと見えなくなってしまった。
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