第21話 カミングアウト

***


 修学旅行先に向かう生徒たちは活き活きとしている。トランプをしたり、わいわい話したり、新幹線の1つの車両内は生徒たちで埋め尽くされているため、他の乗客のことは特に気にもせず、非常にガヤガヤしていた。


 しかしそんな中、車両の後方から2つの悲鳴があがった。



「――いやああああ!!!」


「いやあああああああああああ!!!」



 いきなり上がった悲鳴に静まり返る車内。だんだん、生徒たちがひそひそと声を細めながら何があったのか気にしている。 


 車両内にいた教師が「どうした!? 何かあったか!?」と、車両の前方から急いで車両の後方、最後尾に向かっていく。



 車両の前方、通路側に座っていた大野は悲鳴に気づく。同じ3列シートの窓際でイヤホンを付けて音楽を聴いている、何も知らないカケルにとんとんと肩を叩き、声を細めて話しかけた。


「おい、カケル、今、多分だけど、お前と仲良しのマミちゃんとユキちゃんがめちゃめちゃ悲鳴あげてたぞ」


「……は、マジ!? 何で!? ちょっと俺、様子見てくるわ!」


 カケルはイヤホンを外すと、間に座っている小野寺と大野の間をぐいぐいと通り抜け、通路に乗り出し、先を行く教師のあとを追いかけた。

 カケルが向かったことを見た他の野次馬生徒たちも、一緒になって車両後方へ向かっていく。

 


 教師が最後方に辿り着いた。


 「どうした!?」

 

 悲鳴の発信地である最後尾の席をバッと見ると、そこにはキョトンとした顔のマミとユキがいた。

 

 教師の背中越しに、カケルや野次馬たちが2人を覗きこんでいる。

 教師はキョトン顔の2人に焦りながら話しかけた。


「おいおいどうした、何かあったか!? ……見た感じは怪我とかでは無さそうだな。もしかして他の車両の乗客が来たか? 何かされたのか?」


 心配している教師に対して、ユキが答えた。


「ち、違うんです先生。隣でマミがいやああって叫んだから、何かあったのかと思って、ウチも怖くて一緒に叫んじゃったんです……。ゴキブリでもいたのかなって思って、ウチ、ゴキブリ嫌いなので、分かんないけど、とっさに叫んじゃったんですぅ」


 事情を聞いて「はぁ?」と教師が怪訝な顔をすると、マミに向かって「何で急に叫んだんだ?」と尋ねた。


 マミは「ち、違うんです」と言いながら、教師にペコペコと頭を下げる。


「ち、違うんです先生。アタシ寝てて、そしたらトシゾウ……いや、変な人が出てくる夢を見て。で、自分が消されちゃうところで夢が終わったんですけど、消されるのが嫌だって思って、そしたら多分、寝ながら叫んじゃってたみたいで……。えへへ」


「……はぁ。なんだよ、よく分からんけど、心配させんなよ。次からは気をつけろー」


 教師は呆れた表情で自分の席がある方へ振り返ると、カケルや野次馬たちがすぐ後ろで聞いていたことに驚いて思わず「うわぁ!!!」と悲鳴を上げた。



「お、おいお前ら! 危ないから通路を出歩くなって言っただろ! 何で俺の後ろで聞いてるんだよ! 早く席に戻れ!」


 野次馬たちは「は~い」と席に戻る。


 カケルはぬっと教師の横からすり抜けて「良かった、お前ら心配させんなよな!」と笑顔で声をかけると、それを見た教師は後ろからカケルの腰のベルトを掴んで引っ張り、強制的に席に戻すのであった。



 マミとユキは一連の行動が恥ずかしくなり、2人とも顔を赤らめて手の平を顔で覆った。


「あ~、ユキごめん、アタシ変な夢見てて多分そのまま寝言が叫び声になっちゃってたみたい……」


「ううん、大丈夫。ゴキブリがいたのかと思ったからびっくりしちゃった。ウチ、ゴキブリが同じ空間にいるだけでも無理だから」


 2人はアハハと笑いあった。



 2人は傾いたシートで仰向けのまま、ユキは小声でマミに話しかける。


「先生とかいろんな人達にも心配掛けちゃったね」


「う、うん。恥ずかしかったー」


「カケルくんも来てたよ。ウチらのこと心配してくれてたのかな」


「いやいや、カケルのことだからきっと冷やかしだよ」


「アハハ、そうだったのなー。でもカケルくん、駆けつけてくれたし、やっぱりこういう時なんだかんだ優しいよね」


「まぁ確かに、カケルって無駄に優しいときあるよね」


「えー無駄じゃないと思うけどなぁ。てか、やっとウチら京都に行くんだね。なんだか実感沸かないや」


「そうだねー。ここまであっという間だったね」


「うん。マミ、同じ班になってくれてありがとね。カケルくんたちとも同じ班にしてくれてありがとう」


「ううん、アタシもユキと同じ班になれて嬉しかったよ。また小学生の頃みたいにカケルたちとも遊べるし、なんだか懐かしいね」


「うん、そうだね……」



 ユキが一瞬だまりこむと、先程よりも小さな声でマミに話しかけた。


「……ねぇ、マミ。あのね、ウチね。この修学旅行が終わったら、カケルくんに告白しようと思うんだ」


「……ん?ユキ、今、何て?」


 マミは耳を疑った。

 ユキから何かとんでもないことが発された気がする。

 

 思わず目をあけてユキの方を見た。


「ちょっと、恥ずかしいから何度も言わせないでよ~。あのね、ウチ、修学旅行が終わったら、カケルくんに告白しようと思うんだ」



 「……え? え!? ええ~~~~~~!?!?」



驚くマミの声が車内中に響き渡った。


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