第19話 茂みの中で

 集合時刻となったため、一同はクラスごとに集合し、引率する教師陣たちから修学旅行にまつわる話を聞いたあと、各自で電車に乗り込んで、新幹線のある東京駅を目指した。


 ユキは「体調が戻らなくて……」と言いながら席に座って寝ている。マミは、つり革に揺られながら過去とは違う流れに、落ち着かずそわそわしていた。


(ルカと車で一緒に行くなんてことは無かったし、いつにも増してルカがカケルにアピールできるように張り切ってる……。過去を変えちゃったことでプラスに働けば良いんだけど……)


 うつむいて悩んでいると、近くでつり革に捕まって一人音楽を聴いていたカケルが、イヤホンを外して声をかけてきた。


「マミ、なんか顔色悪いけど大丈夫? 体調悪いなら、席空けてもらおうか?」


 こんな時でもカケルは優しい。周りへの気遣いを忘れないのがカケルのいいところでもあり、そんなところもマミが好きなところの1つだった。


「う、ううん、大丈夫! ちょっと考え事してただけだから!」


「そうなの? それならいいんだけど……。そういえばさ、最近のマミ、なんか急に大人っぽくなった気がするんだけど、何かあった?」


 急なカケルの鋭い質問。


「え!? そ、そそそそ、そんなことないよー! 気のせいだよ、ぜんぜん変わってなくない? えーと、あ、もしかして、この間読んだ雑誌で、<オトナな女性の振る舞い方>って記事があって、それを読んだからかもー?」


 マミはごまかすため、とっさに取り繕った。そんな雑誌がこの時代に売られていたのなら当時の自分に一刻も早く読ませてあげたい。

 そうすれば当時、旅行先でルカから操作されたカケルの情報を聞いても、冷静に対処できていたかもしれない。


「へー、そんな記事あるんだ。 確かに、立ち振舞いが今までよりも全然違うんだよなー。俺もオトナっぽくなりたいな、何て雑誌?」


「ええっと、何て雑誌だったっけなー? 女の子の雑誌を買うなんてカケルできないでしょ? やめときなよ、読んでるとかちょっと引くかも」


 マミは、カケルがいじられるとムキになって反論してくることを知っていたため、このまま論点をすり替えることにした。


「いやいや、バカにすんなよ、俺だって女の子の雑誌くらい買えるし! いつもCD探しに店に行くと雑誌コーナー通るし、実は結構詳しいぜ? よくCDと一緒に買ってるんだよ」


「へぇー、何を買ってるの? どーせカケルのことだから、袋とじにえっちな写真が載ってる雑誌でも買ってるんでしょー。小学生のとき公園で一緒に遊んでて、急にいなくなったと思ったら、茂みの中で落ちてたえっちな雑誌読んでたもんね。せっかく探してあげたのにホント呆れちゃったなー、あー懐かしっ」


「……ば、ばか! そんなこと今更掘り返すなよ。……周りに聞かれたらどうするんだよ。てか、そんなこと全然覚えてませんー」


 恥ずかしがってしらを切るカケルに、カケルのつり革の隣で漫画雑誌を読んでいた小野寺が小声で割って入ってきた。


「え、なになに? カケルがエロ本読んでたところ、マミちゃんにバレちゃったの? うっわー、きついわー。それ、男にとって最悪のシチュエーションじゃん。カケル、お前よく今まで生きてこれたな」


「うっせーよ! お前らだって今読んでる漫画のページ、けっこう過激なのによく平気な顔して電車の中で読んでられるよな、もっと恥じらえよ」


 つり革に捕まる小野寺の後ろで、大野は覗きながら漫画雑誌を読んでいる。


「これは作品なんですー。恥じらうこと何も無いんですー。な、大野?」


「そうだ。カケル、お前の負けだ。諦めろ。そしてマミちゃんに謝れ」


「なんでそうなるんだよ! 調子いい時だけマミに肩入れしやがって……」



 電車の中、小声で繰り広げられる男子たちの掛け合いにマミは思わずふふっと笑うと、今までモヤモヤしていた感情がだんだん和らいでいくのを感じた。


(そういえば、この3人っていつも仲良かったな。カケルはいつも皆からちょっかい出されてたっけ。懐かしいな、いつまでもこの時間が続けばいいな……)


マミは束の間の平和な時間に安心しながら掛け合いを見ていると、気付けば東京駅に到着していた。

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