第16話 初日の朝

 翌朝。


 マミはいつもより早く目覚めた。

 魂は大人で2度目とはいえ、なんだかんだ修学旅行は楽しみで、ずっとソワソワしていた。



 当日朝早くから一人で集合場所である最寄り駅に向かうのは寝坊しちゃうかもしれない、とユキにお願いされたこともあって、この日一緒に集合場所まで向かう約束をしていた。


 マミは途中だった荷造り作業をぱぱっと済ませ、身支度を整えると、キャリーケースを片手に家を出ようとした。


(あ、でも確か、前のときは10分遅刻してきたんだっけ……)



 マミは昔からの習慣で、集合時間の10分前には到着するように心がけていた。そのため、この日も当然10分前に駅に到着する算段を組んでユキとの待ち合わせ時間を設定していた。 

 だが、ユキはそのマミの習慣を知っており、いつもぎりぎりまで遅刻して粘るのが習慣化していた。


 そのため、この日も当然時間ジャストで駅に到着する算段を組んで、ユキとの待ち合わせを10分遅刻するはずだ。実際に最初の修学旅行の当日もそうだった。



(本来だったら、今日は無事に京都で全体行動をして、明日からグループに分かれて散策することになるんだよね。ルカにあんな嘘付いちゃったけど、これから今までと違う未来に変わっちゃう可能性もあるのかな……。前と同じ流れになりそうか、ちょっと運試ししてみよう……!)


 マミは家の玄関の扉を開けかけていたが、ふと開けるのをやめ、かばんからスマホを取り出すと、ユキに電話をかけた。



 5コール待つと、スマホの向こうで焦ったユキの声が聞こえてきた。


『はい! もしもし! マミ、おはよ! 今、頑張ってる! 頑張ってるから!』


「あ、おはよー。あれ、ちょっと待って、何を頑張ってるの?」


『う~、ごめんね、まだ荷造り終わってなくて~。今、頑張ってキャリーケースに詰めてるんだけど……、よっと。おりゃっ。よいしょ! ……でもね、なんかうまく入らないの、どうしよう、このままだと待ち合わせに遅れちゃうよ~』


 案の定、ユキは遅れていた。まさか荷詰めで遅れているなんて。だが、この流れは想定内。むしろ準備が早く終わっていたとしたら既に未来が変わっている証拠だ。

 

 マミは少しホッとした。


「も、もうー! 前の日には荷造り終わらせておきなねってあれだけ言ったのに、しっかりしてよ~」


 自分も今朝方荷造りを終わらせた身なので人を叱る資格はないのだが、過去の自分なら言うであろうセリフを吐いた。


『うう、ごめんね~。でも、もうキャリーケースのジップ締まりそうだから、大丈夫そう……! っよし、入った~! ちょっと遅れちゃったけど、これから家出るね! 2、3分遅れちゃうけど、許して~』


(あれ、もう準備完了したの? 前は10分だったのに、今回は2、3分しか遅刻しないなんて。もしかして、アタシも荷造りを前日じゃなくてさっき終わらせたばっかりだから流れが変わっちゃった? まぁ早く荷造り終わるのは良いことなんだけど、未来が変わっちゃうなら良いことなのか分かんないよね……。どうしよう、今更だけどドキドキしてきた……)


 マミは、未来が良い方向になるのか悪い方向に向かうのか分からず、嬉しい反面不安も入り混じりっていた。


 思考を巡らせ声が出せずにいると、スマホの向こう側でユキが『あーーーっ!』と大声で叫んだ。


『ごめんマミ! 部屋出ようとしたら、パジャマ入れるのを忘れてた~! ごめん、今からパジャマ入れ直すからもうちょっと遅れるかも! ……あれ? メガネってかばんの中にいれたっけ? お財布入ってるっけ? うわうわ、分かんなくなってきちゃった! ……ごめ~ん、やっぱり10分くらい遅れるかも~。集合時間には間に合わせるから待ってて、怒らないで~』



 偶然なのか計画どおりなのか、ユキはきっちり集合時間ピッタリの時間に間に合うように遅れてくるようだ。

 マミは緊張が解け、思わず笑ってしまった。


「……っぷはは! ぜんぜん準備出来てないじゃん! てか、パジャマって旅館に浴衣あるしいらなくない? 大丈夫だよ、怒らないから、ちゃんと間に合わせてよね。じゃあ、10分後にいつもの公園で待ってるね」


『はぁ、良かったぁ~。絶対怒られると思った~。分かった、間に合うように頑張る! でも、パジャマは必須だから持ってく!』


「う、うん、なんでもいいけど、次遅刻したら許さないんだからね! じゃあ、また後で!」


『分かった~! 気をつける~、またね!』



 ――プツっと通話が切れた。


(ったく、許さないって言ってるのに、気をつけるってどういうこと? 絶対に遅刻するの確信犯じゃん。まぁでも、まだ未来は変わらないみたいだし、とりあえず一安心なのかな……。もし未来が変わっちゃったとしても、動じない動じない……)



 マミは家の扉を開け、公園に向けて歩き出した。

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