第15話 伝家の宝刀
「………………」
マミは、自分がついた嘘のせいで、ルカのことを裏切ってしまうことになるのが怖かった。裏切ったあとのルカとの関係性がどうなるのか、想像もつかなかった。
マミにとってこの修学旅行は2回目だが、ルカにとっての修学旅行はこれが初なのだ。人生一度きりしかない修学旅行を、こんな形で踏みにじってしまってもいいのか。親友をこんな形で裏切ってしまってもいいのか。
ルカの楽しみにしていた修学旅行が嫌な思い出になってしまうことに、申し訳なさと焦りでいっぱいになっていた。
『……あれ? マミ、どうしたー? 一緒に合流できるよー?』
スマホの向こう側で、ルカが心配してくれている。
――真面目で責任感の強いマミには、嘘を突き通すことは過酷な選択だった。
マミは、ルカが一番傷つかない方法を考え、言葉を選びながら応答した。
「……ルカ、ごめん。嵐山、一緒にいけないんだ」
『え? どういうこと? だってあの時、嵐山で合流できるかもって――』
「じ、実はね、何日か後にもう一度みんなで話し合って、やっぱり嵐山じゃなくて清水寺に行こうってなったんだ。でも、ルカはまだ嵐山にいくかどうか分からなかったし、ルート被せること難しいかもなって思ってたんだけど、そのまま変わったこと伝えそびれちゃってた……。一緒に回れなくてごめん! 今更伝えることになっちゃって本当ごめん!」
マミには、ルカに清水寺へ行かせないようにするために嘘をついた、とストレートに言うことができなかった。
そのため、差し障りなくマミが悪かったようにすり替え、仕方なく嘘に嘘を重ねることにしたのであった。
マミはスマホの向こうにいるルカに対して、その場で本当に申し訳なさそうな顔を作って謝る。どきどきしながらルカの第一声を聴くのを待った。
『……ぇえーーー!? そうだったのー!? ちょとー、先に言ってよー! ショックなんですけどー! あーあ、せっかく一緒にマミたちと回れるの楽しみにしてたのにー!』
案の定、ルカは怒っている。だが、声色的にはそこまで怒っているような感じではなく、半分冗談まじりのリアクションだ。
(……あれっ? そんなに怒ってない? 軽くショック受けた時のテンションくらいな感じがする……。もしかして、この感じなら喧嘩しないまま終われるかも?)
マミは、このテンションのルカに乗っかった。
「ご、ごめん! 本当はルカも一緒に行きたかったよね、そうだよね。アタシが伝えそびれちゃったからこんなことに……。楽しみにしててくれたのに、本当ごめん、ああ、こんなつもりじゃなかったのに、どうしよう……。ごめん、ごめんねぇ……」
――マミは、ひたすら謝ることでルカに反省している様子を感じてもらい、逆に申し訳なさを感じさせる作戦に打って出た。
これは、23歳のマミが仕事でクライアントから怒られているときに身につけた、したたかさ溢れる伝家の宝刀であった。こんなところで仕事の経験が活かされるなんて。
『ちょ、ちょっとマミ、そこまで謝らなくても大丈夫だって。えーと、確かに楽しみにしてたけど、そこまで気にしてないよ。大丈夫だから、もう謝らないで、冗談だから、アハハ……』
「ほ、本当に? 本当ごめんね。本当に本当にごめん!」
『う、うん、大丈夫だよ。だからもう、そんなに謝らないで! みんな泊まる旅館は一緒だしね。寝る前にマミたちの部屋に行くから、清水寺がどんなところだったか、話聞かせてよね? ワタシ嵐山のお土産買ってくるから!』
「う、うん、分かった。ルカ、ありがとう~! 清水寺のお土産話ができるように、写真もいっぱいとってくるね」
『うん!写真も楽しみにしてるね! じゃあ、また明日! おやすみー!』
「うん、おやすみー」
マミは、ルカが電話を切る音を確認すると、ふぅ。と一息つき、そのままベッドへドサっと倒れ込んだ。
(あーーー、なんとかなったー……。これでルカにも邪魔されないで、無事に修学旅行が終えられるはず……)
マミは、緊張から解放され、疲れがどっと溢れた。
荷造りはまだ終わっていなかったが、このまま眠りにつくことに決めたのであった。
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