第14話 葛藤
ルカに嘘のルートを言ってしまったその日の放課後、マミはモヤモヤと考えながら部活のメンバーたちで集団になってランニングをしていた。
(ルカに嘘付いちゃった……。こんなことして良かったのかなぁ。でも、前はルカのせいでアタシとカケルと喧嘩することになっちゃったし、これくらい良いよね? とはいっても、この過去の世界にとっては未来の話だから、ルカはまだ何も悪いことしてないんだけど……)
マミにとって9年ぶりの中学の部活。マミにとって部活は学生生活において欠かせないものだったが、過去に戻ってきた大人の魂にとって、今は部活よりカケルとの関係性の方が重要だ。部活の練習に身が入るわけがない。
ランニング自体は大学卒業するまでほぼ毎日欠かさず行っていたが、社会人になってからは仕事で忙殺され、ランニングする時間さえ取れなくなっていた。そのためランニングするのは久々だったものの、中学生の頃の身体に戻れているため不思議とそこまで疲れない。
考えながらランニングをしていると、一緒に走っていたカケルが軽く息を上げながら声をかけてきた。
「おい、マミ。なんか今日、キレなくね? いつもなら、もっと、キビキビと走ってるのに」
「……ん? カ、カケル! びっくりしたー。う、うん。ちょっと、考え事してて」
「そうなんだ。珍しいじゃん。もし、俺でよければ、相談乗るよ」
「え? あ、いや、大したことじゃないの。だから、大丈夫! 気にしないで!」
カケルにとっては善意なのだろうが、まさか自分のことでマミが悩んでいるなんて思ってもいないだろう。マミは悟られまいとごまかした。
カケルは、どこか悲しそうな表情で「そっかあ、まぁ、頑張ろうぜ」と労うと、マミよりもペースをあげて走り去っていった。
(……いつまでもクヨクヨなんかしてられない。アタシは、カケルのために、ルカにもあんなことさせないために、一からやり直すって決めたんだから!)
マミは自分の決意を思い出し、ランニングのペースを速めはじめた。
***
子供の頃は1日が長く感じるというが、社会人になり、歳を取れば取るほど時間があっという間に過ぎていく。
マミの魂は23歳。仕事に忙殺されるほどではないが、時間の経過は中学生の身体であっても早く感じた。
気づけばもう、修学旅行の前日。
マミは荷造りをしながら、改めて霊安室でカケルが話していたことを思い出していた。
(確か、カケルは修学旅行が終わったら告白するつもりだった、って言ってた。ルカにルートを嘘ついたくらいで、それ以外は特に普段どおりに生活できてたはず……。これなら、ルカに邪魔されずに修学旅行も無事に終わるはず……)
――その時だった。
マミの机の上に置いてあったスマホが、ブルブルと震え出した。
スマホの画面を見ると、そこには「ルカ」からの着信と書かれていた。
マミは、表示を見て一瞬電話に出るのをやめておこうと躊躇したが、意を決して通話ボタンをタップした。
「あ、もしもしー」
『あ、もしもし、マミ? いきなり電話しちゃってごめんね。今って電話しても大丈夫?』
ルカの声は普段どおり明るかった。マミは、心臓の鼓動がいつもより早くなっているのを感じた。
「うん、大丈夫だよー。ちょうど荷造りしてたところ」
『そっか、それなら良かった。明日、やっと修学旅行だね!』
「そうだね、とうとう明日だね」
『ねーねー、そういえばワタシたちの班、マミたちと同じ時間くらいに嵐山に行くことになったよ!』
マミはルカの言葉を聞くと、一気に顔が青ざめた。
心臓の鼓動がバクバク早まるのを感じた。
(まさか本当に嵐山に行くことになるなんて……)
話す言葉が見つからなくなった。
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