第13話 良心
***
「あーーー! あの時じゃん! アタシから言ったんじゃん!」
マミは、かつての自分を後悔した。自分から墓穴を掘っていたなんて。
当時はルカと回れると思って楽しみにしていたが、実際当時は清水寺でルカの班とは合流していたものの、ルカ自体を見かけることはなかった。
そのため従来どおり班のメンバーみんなと行動し、カケルとの楽しい思い出ができたのだった。
でも実はその時、ルカがずっと一人でカケルに話しかけるタイミングを狙っていたのだとしたら……。
高所恐怖症のマミがカケルにくっついて怖がっていたり、仲良くお参りしている様子もずっと見ていたのだとしたら……。
じれったさと嫉妬心が溜まっていたのだとしたら……。
何でも好きなものが手に入って、プライドが高いルカのことだ。
まさか告白して振られる、なんて思いもしなかったのであろう。親友のマミをダシにしてでも、カケルと付き合いたかったのかもしれない……。
(清水寺でルカの班と合流しないようにすれば、告白は回避できるし、あんな風に言われることも起きないで済むかも……)
マミは、自分の中にある正義感や良心が傷んだが、意を決した。
翌日、マミはカケルから聞いたルートをもとに班のメンバーにルートを提案した。
結局、マミたちが前にも巡った元のルートのまま、正式に決定した。
(清水寺でカケルを見失わないようにすればいい。てか、せっかく過去に戻って来たんだし、カケルともう一回、楽しく清水寺デートしたい!)
マミは、過去に戻ってきてからもう一度修学旅行に行けることが楽しみになっていた。結局は自分の欲望が勝った。
だが、ルカと清水寺で鉢合わせることだけは絶対に避けたい。
(今日は確か、ルカがルートを聞きに来るはず……)
したたかな下心がマミに芽生えていたのだった。
――その日の昼休み。
案の定、ルカが教室にやってきた。
「あー! いたいた! マミ、やっほー!」
呼びかけるや否や、ルカはぴょんぴょんと小走りで教室の窓際の席に座っているマミのもとまで向かってくる。
マミはルカの声に気づくと、「やっぱり来たか」と思いつつ、ニコっと微笑んでルカへ手を振った。
ルカはマミの席へ向かう途中、別の席で友達と話しているカケルを見かけて何やら声をかけている。
(よくよく考えたら、ルカからカケルにアプローチしてる感じ見え見えじゃん……何で気づかなかったんだろう……)
ルカを見てマミは若干皮肉めいたことを感じつつも、ルカが席に来るのを待った。
ルカはぴょんぴょんしながらルカがマミの席まで来た。
机の前にしゃがんて腕を乗せ、その上に顎を乗せてマミに話しかける。
「やっほー! ねえねえ、マミたちの班はもう班散策で行くルート決まった?」
「や、やほ。うん、一応決まったよ」
「そうなんだ、やっぱりマミが班長だと決まるのも早い! どこに行くことになったの?」
「そんなことないよー。ルートは、えっとね――。」
マミは褒め言葉を軽く受け流した。
そして机の中から修学旅行用の旅のしおり、ではなくメモ代わりに使っている手帳を取り出すと、ルートを手描きで書いたページを開いてルカに見せて指し示した。
「アタシたちはこんな感じだよ、世界遺産を中心に巡るんだけど、最後は“嵐山”に行くんだー」
嘘である。
ルカは、ルートを見て少し笑顔が崩れた。
「へぇー、嵐山かぁ……。でも、その前の場所から嵐山まで結構距離あるよね。何時くらいに嵐山に着く予定なの?」
「んー、多分16時くらいかな? 一番最後のルートになる予定だよ」
マミが時間を告げると、ふーん、とルカは何かを思い出すかのように左上に視線を向けた。
「そーなんだー。……もしかしたら、ワタシたちも同じ時間に嵐山に行くかも!」
マミは少し怪訝な顔をした。
(――あれ? 清水寺に行くんじゃないんだ? もしかしてルカ、まだルートは決まってなくて、アタシたちの意見を聞いてからルートを決めようとしてた?そこまでしてカケルと合流したいの? ……そしたら、なんとしてもルカを嵐山に行かせなきゃ! カケルとアタシの邪魔は絶対させない!)
マミは意を決して、前にも似たようなことを言ったなぁと思いながらも、ルカへ微笑んでリアクションした。
「そうなんだー! そしたら合流して一緒に回れるかもね! もし一緒に回れたらすごい楽しいんだろうなー」
「うん! そうだね、楽しみだね! あ、ねえねえ、マミの班のメンバーって、ユキとカケルくんも一緒なんだよね?」
「うん、その二人も一緒だよ。ルカも一緒に回れるといいね!」
「そーだよね! やったやった、一緒に回ろー!」
ルカはその場で立ち上がり、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
マミは、今までの自分なら絶対にしないであろう嘘の付き方で、良心が苛まれた。だが、これも後にカケルと結ばれるための試練かもしれない。
本当に楽しみにしていそうなルカの顔を見て「うん、楽しみにしてるね」と引きつった笑顔で返事をしたのであった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます