第12話 あの時そういえば

 マミは、自宅に帰宅すると、現代ではもう廃棄してしまった学習机に懐かしさを感じつつも、備え付けの椅子に腰掛けて自室でカケルから聞いた散策ルートをチェックしてみた。


「えーっと、男子の行きたい場所は金閣寺、銀閣寺、仁和寺、清水寺、嵐山か……。お寺をめぐるルートにすると、清水寺でカケルとはぐれることになっちゃって、ルカがカケルに仕掛けちゃうんだよね。でも、アタシの勝手な希望で清水寺に行かせないルートにするのは怪しまれるだろうし、どうすれば……」


 過去では当時、他のクラスの複数の班と清水寺で合流していた。そして、その場に隣のクラスだったルカの班も合流していたことをマミは思い出した。


 複数のグループが合流した結果、個々人で他のグループの人と行動するようになってしまい、グループ行動がおざなりになっていたのだ。そこで出口に向かう途中、カケルとはぐれたのであった。



(となると、ルカは元々カケルが清水寺に行くことを知ってた? だから帰り際にカケルを呼び出して告白しようとしたのかも? ――あれ? そういえばルートを教えたのって……)


 マミは昔の記憶を手繰り寄せた――。



***


 マミの班で散策ルートが決まった、次の日の昼休み。隣のクラスのルカが、マミのいる教室にやってきた。


 ルカは教室の出入り口からキョロキョロと見渡すと、マミを見つけてニコっとし、大きな声で呼びかけた。


「あー! いたいた! マミ、やっほー!」


 呼びかけるや否や、ルカはぴょんぴょんと小走りで教室の窓際の席に座っているマミのもとまで向かっていった。


 教室内の男子たちの視線が、一斉にルカに集まる。

 マミはルカの声に気づくと、ちょっと恥ずかしそうにルカへ手を振った。


 ルカは小学生のころから可愛いと評判だったが、中学生になると、校内でも可愛い女子の代表として必ず名前が上がるくらいの人気者になっていた。廊下など、彼女とすれ違った男子は常にチラチラとルカを見るほどチヤホヤされていた。


 高めにくくるツインテールやエクボ、ちらつく八重歯は前と変わらず。150cmに届かないくらいの細くて小ぶりな体型と、クリッとした目の童顔で、可愛らしさがますます増していた。


 そんな人気者のルカも、マミとユキとはずっと仲が良く、クラスが離れても1日1回はルカやユキと話をしにクラスへやってくるのであった。


ルカはマミの席へ向かう途中、別の席で友達と話しているカケルと見かけると、ニコッとした笑顔で「あ! カケルくん、やっほー!」と挨拶した。


 カケルはクラス中の男子の視線が一斉に集まるのを感じたのか、少し恥ずかしそうに「お、おう、ルカ。お疲れー」と、そっけなく返事をした。


 挨拶を返されて更に上機嫌になったのか、ルカは更にニコニコした表情でマミの席まで来ると、机の前にしゃがんて腕を乗せ、その上に顎を乗せてマミに話しかけた。


「やっほー! ねえねえ、マミたちの班はもう班散策で行くルート決まった?」


「やほ。うん、決まったよー」


「そうなんだ、やっぱりマミが班長だと決まるのも早いねー! どこに行くことになったの?」


「いや、たまたまだよー。ルートは、えっとね――。」


 マミは褒め言葉を笑顔で返しつつ、机の中から修学旅行用の旅のしおりを取り出すと、ルートが書かれたページを開いてルカに見せて指し示した。


「アタシたちはこんな感じ! 世界遺産を中心に巡ろうってなって、金閣寺とか清水寺とか行くんだー」


「あっ、清水寺も行くんだ! ここ、ワタシたちも行くかも! 何時くらいにいくの?」


「んー、多分16時くらいかな? 一番最後のルートになる予定だよ」


 マミが時間を告げると、ふーん、とルカは何かを思い出すかのように左上に視線を向けた。


「そーなんだー。……もしかしたら、ワタシたちも同じ時間に行くかも! そしたら合流して一緒に回れるかもね! 」


「ほんとに? 確かに楽しそう!」


「もし一緒に回れたらすごい楽しいんだろうなー。あ、ねえねえ、マミの班のメンバーって、ユキとカケルくんも一緒なんだよね?」


「うん、その二人も一緒だし、ルカも一緒に回れるといいね!」


「そーだよね! やったやった! みんなで一緒に回ろー!」


マミは、「うん、楽しみにしてるね!」とルカへ元気よく返事をしたのであった――。

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