第6話 誤解

***



 ――カケルは続けた。


「その後、俺もみんなと合流するために戻ったらさ、マミがめちゃくちゃ怒ってて。最初は俺がはぐれたから心配してくれて怒ってくれてるのかなって思ったけど、『あたしの心配を返して』とか言われるもんだから、とりあえず何があったか事情説明しようとするけど『言い訳なんて聞きたくない』って一点張りで。


 『信じられない』とか『気持ち悪い』とか『よくそんな簡単にあたしの前に顔を出せるね』って言われてさ。訳が分からないから理由を聞こうとしたら『しらばっくれるとかありえない。最低。もうカケルなんて知らない。一生話しかけないで』って俺のこと突き放したよな。


 ……正直パニックになっちゃったよ。そしたらさ、ずっとマミに対して感じてた好きって感情も、わざわざ陸上部に入った意味も、今まで俺が毎回レコードショップに行って曲を探しておすすめしてたことも、全部が無駄になったのかって思うとすげー腹が立ってさ。


 理由も聞いてくれないし、めちゃくちゃ怒られてるし、両思いだったらそこまでしないよなと思って、これって実質振られたもんだし、もう何を言ってもいいやって吹っ切れて、頭真っ白になって。もうあんまり覚えてないけど、マミに逆ギレしてひどいことたくさん言っちゃったんだよな……」



(――ということは、ルカが言ってたことは嘘? ルカは振られたのが悔しくてアタシのこと騙したの? そしてアタシはまんまと騙されて、カケルの話なんか一切聞かないであんなひどいことばっかり言っちゃったんだ。ああ、なんてことしちゃったんだろうアタシ……)



 マミは後悔の念に駆られた。確かに、カケルにはさんざんなことを言われ、相当落ち込んだことを覚えている。おそらく今まで溜まっていたマミへの想いが裏目に出てしまったのだろう。だが、それを引き起こしたのは自分のせいだった。そして死んでしまった今となっては何もすることができない。



カケルの下唇がぷるぷると震えだしていることに気づく。


(なんでそんな顔するの?なんだかあたしまで悲しくなってくるじゃん、やめてよ…。)


今となっては魂だけだが、マミは泣きそうになったときに鼻の奥あたりがジンジンする感覚を感じた。



カケルは大きくため息をつき、また語り始めた。


「俺、ずっと喧嘩したあの日のこと後悔してたんだ。なんでちゃんと本当のこと伝えきれずに怒っちゃったんだろう、なんで素直になれなかったんだろう、なんでマミにあんな言い方しちゃったんだろう、ってずっと後悔してたんだ。


 最後に俺からも『もう話しかけてくんな』って言ってから、あんなにいつも一緒に喋ってたのに、教室でも廊下でも、すれ違っても挨拶もしないし、お互い顔見ても完全無視するようになったよな。喧嘩してからなんだか恥ずかしくて声かけられないし、そもそも俺は悪くないしマミが謝りに来るだろうってずっと意地張って粘ってたんだ。


 そしたら卒業式になっちゃって、やっぱりマミは来てくれないって思った。その時やっと俺がバカだった、マミにあの日のこと謝らなきゃって思ったんだけど、もうその時マミはもう帰っちゃってたから謝れずじまいだったよ。言い訳しててマジかっこわるいよな、俺。


 結局それからも会えなくて、そのままずっと時間が経っちゃってさ。電話とかメールとかしようと思ったんだけど、今更どんなふうに言えばいいんだろうとか、今更謝っても怒られるんじゃないかって、怖がってずっと連絡できなくて。マジちっちゃい奴だよな。」


 マミも実は同様に後悔していた。マミも言い過ぎてしまったことに対してずっと反省していたが、喧嘩してからというもの、負けず嫌いが裏目に出てしまい、声をカケることができなかったのだ。

 マミも謝るタイミングをずっと探っていたが、ついには謝ることができないまま中学校を卒業したのだった。


 だが、今やっとカケルも同様に後悔していたことを知り、少しだけ気持ちが晴れるような気がした。

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