第5話 事の発端
カケルは語り続けた。
「班長だったマミは他の5人のまとめ役で、時間通りにみんながちゃんと全部のルートを散策できるようにずっと準備してくれてたよな。あの時はちゃんと言えなかったけど、本当ありがとな。
当日も、マミと一緒に行動できてすげー楽しかった。仁和寺のめちゃくちゃでかい金剛力士像とか、清水寺の崖の高さにビビってるマミとか見てさ。普段ビビること少ないから、こんな一面もあるんだって、もっと知りたいなって思ったよ。」
マミは大きく怖いものが苦手で、高所恐怖症だ。金剛力士像などの大きい像はマミにとって怖さそのものであり、清水寺に来た時は、断崖絶壁が怖くて終始カケルにしがみついていた。
ただ、しがみついている時は恐怖の反面、一緒に巡れて嬉しかったことを今でも覚えている。
カケルは怪訝な顔をして語り続けた。
「でもあの日、別の班だったルカが来てさ、急に俺のこと呼び出してきてみんなとはぐれちゃってさ。個別に呼び出して何だろうって思ってたら、ルカがお守り買いたいから付き合ってくれって言い始めて。付いていったんだけど、途中で見つけたお寺で恋愛成就のお守りを売ってたから、マミへの告白を成功させたいって思って、俺も買ったんだ。
買い終わってみんなのところに戻ろうと思ったら、まさかのルカが俺のこと好きだから付き合ってくれって、告白してきたんだ。初めての経験だったからすげーびっくりしちゃったよ。お守り効果ココで出ちゃう? って思ったわ。
でも俺、マミが好きだから諦めてほしいって断ったんだ。修学旅行が終わったら告白するつもりだったし。そしたら、『ウチがカケルくんのことマミよりも好きにさせるから、マミと今日から話さないで』って言ってきたんだよ。
意味分からないこと言うもんだから、俺もカッとなって『話さないで? 何言ってるんだよ、そんなこと言われたらルカのこと余計好きになんかなるわけないだろ』って言っちゃったんだよね。言い過ぎちゃったんだよな。
そしたらさ、ルカは俺の頬を思いっきりビンタしてきたんだ。んで、走ってどっか行っちゃってさ。めっちゃ痛かったことを今でも覚えてる。よく分かんないけど、言っちゃいけないことを言ったことだけは分かったよ。」
マミはカケルの話を聞いて混乱した。そして同時に、ルカに対して抱いていた強い信頼も一気に疑心に変わった。
(あたしがルカから聞いた話と、カケルが言っていることが全然違う。どちらが正しいの? でもカケルが嘘付いているようには思えないし……。もしかして、ルカが嘘をついてたってこと?)
あの時、マミはルカから言われたことを今でも鮮明に覚えている――。
***
――あの日、班行動中にグループリーダーとしてはぐれたカケルを探しに行っていたとき、泣きながら走っているルカと遭遇した。
「え、ルカ!? ちょっと、どうしたの!? なんでそんなに泣いてるの?何かあった?」
マミは慌てて声をかけると、ルカはマミの胸に飛びついた。
「マミ~! うう、怖かったよぉ。……あのね、実はね。カケルくんに『お守り買いたいから付いてきて』って誘われて、ついていったらお揃いのお守りを渡されたんだ。そしたら、お寺の裏に呼び出されて、ワタシのことが好きだって告白されたの。
ワタシは、カケルくんがマミのこと好きだと思ってたから、びっくりして『マミのことは良いの?』って聞いたら、『マミのことが気になるんだったらもうマミとは絶交する』って言ってきたの。
でも、そんなのダメだと思って、ウチはマミのことを守ろうと思って、『そんなのだめだよ、マミちゃんが悲しむよ』って言ったの。そしたら、『マミの話はどうでもいい、もう我慢できないんだ』って言って急に抱きついてきて、キスされそうになったの。
ワタシ、怖くて、もう何がなんだか分からなくて、カケルくんの顔をビンタして、走って逃げてきたの。怖かったよぉ、もうカケルくんのこと信じられないよぉ。マミも気をつけて……。」
それを聞いてマミは驚愕した。
あのカケルが、ルカにそんなひどいことをするなんて。確かに小学生のころはよく公園で一緒に遊んでいたり、中学生になってもルカとカケルはよく話していた。
それでルカのことを好きになって、人気者になってるからって、調子乗って思春期のカケルが暴走したんだとしたら……。自分のカケルに抱いていた想いがだんだんばかばかしくなってきた。もしかして、曲のおすすめをしていたのは自分だけでなくルカにも……?
マミは、今までカケルに対しての好きという想いが実っていなかったこと、カケルの好きな人が自分ではなくルカだったこと、そして、マミのことをないがしろにして、ルカと無理やり付き合おうとするカケルのことが腹立たしくて仕方がなくなっていた。
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