第4話 陸上部とイヤホン

 カケルは懐かしいなあ、とにこやかな表情で語り続ける。



「小学校6年生でドロケイしたとき、やっとマミのこと追いつけるようになって、すげー嬉しかったこと今でも覚えてる。そんな感じだったから、中学が同じ学校に通うことになったのを知って本当びっくりしたよ。


 今だから言えるけど、俺が中学で陸上部に入った理由、マミが陸上部に入るって聞いたからなんだ。当時は入った理由を『単純に脚が速くなりたいだけだから』とか『入る部活なくて仕方ないからたまたま入っただけだ』とか言い張ってたけど、本当はもっとマミと一緒にいられると思ったからなんだ。嘘ついてごめん。


 陸上部に入ってからは、脚が速くなることよりもマミと一緒に練習できることの方がめちゃくちゃ嬉しかった。マミに格好つけたくて、誰にも負けないくらい速くなろうって短距離の練習して、大会で優勝するために必死に走った。でも、賞とかもらうことよりも、マミに褒めてもらえることが一番嬉しかったんだ。」



 マミにとって、いつもかけっこで負けていたカケルが、成長するたびにだんだん自分に追いついてきてしまうことが悔しかった。もっと足が速くなりたいと思い、陸上部に入った。


 カケルも一緒に陸上部に入ることは部活の初日にカケルの姿を見て初めて知った。

 もっと練習して追いつかれないようという気にもなったが、それよりもカケルと同じ部活になれたことがとても嬉しかった。厳しい部活でも耐えられる動機になった。



 まさか二人とも、一緒にいられることが部活のやる気に繋がっていたなんて。不純な理由が一致していたことに、マミはクスっと笑った。


 マミが笑っているとはつゆ知らず、カケルは続ける。


「マミは頭もよくて勉強もできたから、よくテスト勉強とか教えてもらってたよな。教えてもらってる時間がすごく楽しくてさ、みんなが嫌いって言ってるテストは俺にとっていつも楽しみな行事だったんだ。


 で、いつもマミに与えてもらってばかりじゃなくて俺も何かしてあげたいと思ってさ、帰り道が一緒だから、部活が終わったら帰りながらいつも俺がハマってたバンドの曲とか毎回日替わりでおすすめしてたじゃん? アレくらいしか俺ができることないかなと思って、情報必死に集めてたんだよね。


 時間見つけたらレコードショップ行って、新しいバンドのCD買いまくって。おかげでディグるのが趣味になった。んで、毎回おすすめしてもマミは嫌な顔全くしないで興味持って聴いてくれて、本当に嬉しかった。イヤホンを片耳ずつ指しながら一緒に帰ってるあの時間が最高に幸せだったんだ。」



 カケルは練習してますます足が速くなり、いつしか抜かされるようになってしまった。カケルは実力だけでなく、見た目も垢抜けて格好良くなっていき、気づけば周りの女子からも密かに人気を集めるようになった。


 そんなカケルだが、自分ではその人気度に気付いていないようだった。なので、カケルに唯一の理解者であるかのようなポジションで寄り添い、曲を教えてもらいながらイヤホンを分け合いっこしている、放課後の帰り道のあの時間がマミの一番の幸せだった。



 カケルが当時マミのためにそこまで努力してくれていたことは全く知らなかったため、マミはカケルの行いに感謝でいっぱいになった。



「でさ、中学3年のときに同じクラスになれて、本当に毎日楽しかったんだよ。お互い友達が周りにいたからあんまりクラスでは話せなかったけどさ、一緒の空間にいられるってだけでめちゃくちゃ幸せで。


 でさ、修学旅行の班決めで、同じ班になれたときマジで嬉しかった。部活以外でも話せるし、しかも一緒に京都中を周ることできるって考えるともうめちゃくちゃ待ち遠しかったよ。


 あの時はマミのことばっかり考えてたから、他の班の奴らのこととか、そういうの何も気にしてなかった。俺、修学旅行の最終日にマミに気持ち伝えたいって思って、それから告白のセリフ毎日考えてたんだ。今考えてみたらめちゃくちゃ恥ずかしいな。」



 マミは、カケルの昔話を聞いて胸が焼けるほど熱くなった。まさか両思いだったなんて。


 カケルが自分のことをずっと好きだったこと、マミを想ってずっと付いてきてくれたこと、マミのために影で努力していたことを知り、とてつもなく嬉しかった。


 だが、同時に疑問が湧いた。


(カケル、あの修学旅行のときアタシに告白しようと思っていたの?あれ、だってあのときは確か……。)

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