第2話 「カケル」
――遡ること2年前、「彼氏探しをしたいから一緒に付いてきてよ~」とユキに無理やり連行された他大学の学園祭。
多くの大学生でごった返しているなか、たまたま見かけた[ライブ会場はこちら→]という立て看板を見かけると、「やっぱり学園祭といえばライブだよね!」とユキは矢印が指すライブ会場へ颯爽と向かっていった。
マミは仕方なく付いていくと、出演しているバンドが演奏しているのであろう音が、だんだんと近づいてきた。聞き覚えのある曲。この曲を最後に聞いたのはいつだったっけ……。
そんなことを思いながら会場に入ると、熱気と爆音がぶわっとマミを包んだ。
ざっと100人以上はいるだろうか。人がギュウギュウに詰まった会場内で、熱気を生むオーディエンスの向く先には、4人の男性たちが、マミが聞き覚えのあるバンドの曲を演奏していた。
「人が多いからさ! 前の方まで! ライブ見に行こうよ!」
爆音が流れている中、ユキはマミの耳元に大声でそう話すと、マミの手をぐいぐいと引っ張って前進していった。
二人はもみくちゃにされながら、なんとか最前列にたどり着きステージを見上げると、そこには見覚えのある、でも少し大人びた顔が、活き活きとギターを弾きながら歌っていた。
それは、幼いときから常に一緒で、好きで好きでたまらなかったマミの初恋の相手で、中学3年生のときに喧嘩して以来、一度もまともに話すことができずに会わなくなってしまった“カケル”だった。
茶色い無造作パーマに、ゆるっとした白いプルオーバーのパーカーにスキニーパンツでギターを抱え、すっかり垢抜けていた。当時から変わらないたれ目の優しそうな顔だが、歌っているときはなんだか勇ましく感じる。声変わりしたての中学時代と比べ今は芯のある声になっていて、マミの知っているカケルよりも遥かに大人びて見えた。
(カケルだ! やっぱりカケルだ! 大人っぽくなってる! この曲、前にカケルがオススメしてくれた曲だ。カケル、この曲聴きながらよくエアギターしてたっけ。本物の楽器で弾けるようになったんだ。みんなカケルの方を向いてるし、こんなに大勢の前で歌っちゃうなんて、すごいなぁ、キラキラしてるなあ、カッコいいなぁ。今も住んでるところ変わらないのかな。今までどんな学生生活を過ごしてきたんだろう。気になるなぁ、話したいなぁ……)
マミはすっかり見違えたカケルの姿を見て、ライブそっちのけで思考を巡らせていた。だが、同時に心の奥底で引っ掛ける不安がよぎった。
(カケルはこんなにカッコよくなってるのに、あたしって昔と比べたらどれくらい変わったんだろう。あの頃から全然変わってない気がする。今のあたしが話しかけても、こんなに成長したカケルに相手にしてもらえるのかな? てか、あのとき喧嘩してからまともに話せてなかったし、あの日のこともまだ許してもらえてないかもしれない。てかてか、まともに話なんてできるのかな? 絶対普通に話せないよね? ああ、どうしよう、どうすれば……)
マミはどんどん心臓の鼓動が早くなっていくのと同時に、話したい欲と不安がいりまじっていた。
だが、マミには中学生の頃以来、喧嘩してから全く関わってこず今のカケルに今更声をかける勇気を生み出すことができなかった。
(話したいけど、あんなキラキラしてるカケルに、今更どんな顔して話しかければいいんだろう。やっぱり無理だ、諦めよう……。)
聞き覚えのある曲は、ラストのサビに入るCメロまで演奏されていた。
ラストに向けてボルテージが上がっていく観客。
熱気が更に増えていく会場。
マミは、ラストのサビに近づくにつれて徐々にステージへ近づく観客の間をグイグイと抜けて、会場入り口のドアに向かって進んだ。
会場を出ると、ユキに『ごめん! 急用ができたから先に帰るね、楽しんで!』とチャットを送り、来た時よりも増している人混みを避けながら、大学祭を後にした――。
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