ソウル・タイムスリップ~社会人から学生に戻って、今度こそ想いよ届け!~
正田マサ
第1話 霊安室
薄明るい室内で、友人のユキはすすり泣きしながらマミに話しかけた。
「マミちゃん、一緒に行ったあの日の海外旅行、覚えてる? ウチが寝坊したから、飛行機に乗り遅れて、マミちゃんにすっごく怒られたよね。でも、飛行機が遅延してくれて結局間に合ってさ。あの時のマミちゃんの拍子抜けした顔、未だに忘れられないんだ」
ユキは小学校時代からのマミの親友だ。ぷっくり体型で、髪を上に上げたお団子ヘアがトレードマーク。ペットショップで働いているからか、どことなく犬顔に見える。そんな愛らしい姿とおっちょこちょいな正確は、几帳面でリーダー気質のマミと相性ぴったりだった。
「うんうん、覚えてるよ。だってあの飛行機に乗り遅れてたら一日予定が潰れちゃうんだもん。ユキちゃん遅れて来たのに全く反省してなくて、ずっとヘラヘラしてたし……」
マミは微笑みながらユキに対して応答するも、そこから会話が噛み合わない。
「もう一緒に行けないんだね。あぁ、マミちゃんとまた旅行したかったなぁ……」
ユキはその後も一方的に、思い出と悲しみの言葉をマミに話しかけている。
ユキはしばらく語り続けると、「ずっと一緒に居たいけど明日も早いし帰らなきゃ、ごめんね」と言ってユキは部屋を後にした。
「本当にあたしって死んじゃったんだなぁ……」
マミは、薄明るい霊安室の中で、自分の死を改めて実感していた。
***
真面目な性格で、中学から大学まで成績優秀。責任感が強くリーダーシップをいかんなく発揮できることから、リーダーポジションの役職を任されることが多かった。負けん気が強く、誰よりも練習熱心であることから部活では陸上部のエースとしてインターハイでも活躍。
陸上部で紫外線にさらされているにも関わらず相反したキューティクルの整う黒髪のロングヘア。程よく筋肉が肉付いているものの女性にしては身長は高く、スラっとした出で立ち。陶器肌と呼ぶにふさわしいきれいな白い肌とキリッとした二重の目にまっすぐツンと通った鼻筋。
そんな彼女の魅力から才色兼備の美少女として、男子生徒だけでなく女子生徒からも注目を集めていた。友人にも恵まれ、学校の先生たちからも文武両道の模範生として評判が高かった。
だが、色気づいた話は一切ない。高校では幾度となく男子生徒から告白を受けるも、『過去に自分が好きになった人よりも好きになれそうな人じゃないと受け付けないから』と全て断っていた。男子からは高嶺の花の存在となっていた。
第一志望で合格した大学でも真面目に授業を受け続け、3年次には単位を全て取り終えて就活に専念。第一志望だったコンサルティング会社に無事就職したところまでは良かった。
だが、入社してからというもの平日は深夜まで働き、睡眠もろくに取れない。資料作成やプレゼン準備など、仕事が終わらないので休日も返上。
頑張っているにも関わらず結果はなかなか出ず。職場では上司に詰められ、クライアントにも怒られる日々。真面目な性格で責任感を感じやすいが故に、悶々と悩む日が続いた。
(こんなに頑張っているのに、なんで上手くいかないんだろう。学生だった頃は上手くいかなかったときなんて、あの時以外なかったのに。もう、疲れたな……)
クライアントからの受注を逃した日、終電に乗り遅れるため深夜残業を一時的に終え、駅に向かいながらくよくよと過去を振り返っていた。
だが、度重なる睡眠不足と連日の精神的苦痛により、マミの意識は朦朧としており、赤信号に気づかず、トラックから発せられるクラクションにも気づかず――。
死因はトラックに撥ねられたことによる交通事故だった。身体にたいした損傷はなかったものの、コンクリートの道路に頭から倒れ込んだため打ち所が悪く、即死だった。
マミが次に目が覚めたときは、道路に倒れ込むマミの身体が横たわっていた。
死後の世界は何もないものだと思っていたが、魂だけは残ることを初めて知った。
トラックに撥ねられた時は痛さ以外何も感じなかったが、自分の身体が目の前に倒れている状況に気づき、マミは死を悟った。仕事で絶望していたからか、そこまで後悔はなかった――。
***
自分の死を実感してからは目まぐるしいスピードで事が運び、遺体は霊安室に運ばれていた。
そして、気がつくと自分の遺体のそばに魂だけが残っていたのであった。
死後の世界は”無”だと思っていたが、どうやら死後もまだ魂だけはこの世に残しておいてもらえるらしい。
(こんなに自分のために泣いてくれる親友がいるなんて……。アタシって、幸せ者だったんだなぁ。もうすぐこの世とお別れしなきゃいけないのかな。こんなことになるなら、すぐにでも転職しておくべきだったかな……)
マミは今更ながら後悔の念が芽生えてきた。だが、死んでしまっているためもう何もできない。
だんだんとやるせなさがこみ上げてきた。
――その時だった。
霊安室のドアがガチャっと開いた。
魂だけになったマミがドアに視線を向けると、見覚えのある顔が現れた。
それは、マミにとって忘れもしない、幼稚園時代からずっと好きだった、マミの初恋の相手である“カケル”の姿だった。
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