第23話 合宿6

「お待たせしました。こちらご注文のアイスコーヒーになります」


注文した二つのアイスコーヒーがテーブルに置かれる。


いま俺の向かい側には届いたアイスコーヒーを飲んだ由美さんが居る。


プラスチックストローを通して黒い液体が静かに由美さんの口の中に入っていく。


それを俺は無根で見つめた。


「もしかして緊張してるの?」


「まあ、少しだけ」


思えば由美さんと二人だけで話すことはそうそうなかったと思う。


だからなのか妙な緊張感が今の俺にはあった。


「アイスコーヒー飲まないの?」


気づくと俺のグラスには結露した水滴が数滴付いていた。


俺はそんなグラスを手に取り口を付ける。


「雫ちゃんと何があったの?」


「っ・・・・・・」


由美さんの一言で飲んでいたコーヒーが食堂に詰まりむせ返した。


「大丈夫?」


そんな俺の姿を由美さんは心配そうに見守っていた。


俺はもう一度アイスコーヒーを飲み落ち着かせる。


「知ってたんですか?」


「それは見ればね」


どうやら俺と雫の様子がおかしい事は、遥だけではなく由美さんにも気づかれていたらしい。


「もしかして俺を誘ったのもそれを聞くためですか?」


「観光半分、聞くため半分ってところかな」


俺の考えはどうやらあっていたようだ。


由美さんが俺を誘った理由は、俺と雫との間に起きたことを聞くため。


だからさっき傑に無理やりジャムを買いに行かせたのか。


「何があったのか聞いてもいいかな」


「・・・はい」


俺は包み隠さず肝試しで起きたことを全て話した。


由美さんは静かに俺の話を聞き、そして俺を見つめ言う。


「最低ね」


その声色はいつもより低かった。


「すみません・・・」


「私に謝らないで」


その言葉は少しだけ距離を感じた。


「・・・はい」


いつもの明るい由美さんとは対照的に威圧を感じた。


「正直私は油崎くんを簡単に許せない。だけど、雫ちゃんの事が大好きだから二人の仲直りはお手伝いする」


「ホントですか?」


「あくまでも雫ちゃんのためにね」


「俺のためじゃなくても嬉しいです。でも・・・・・それって本当に雫のためになりますか?」


「どういうこと?」


由美さんの気持ちは嬉しい、でも今の俺には迷いもあった。


「もし雫が俺を嫌いになって二度と関わりたくないと思っていたら、仲直りしようとすることは雫のためにならないんじゃないんですか?」


今日の雫の態度から、俺が避けられていることはすぐに分かった。


だから由美さんが雫のためを思うなら、俺に協力することは必ずしもいい事ではない気がした。


「油崎くんはそう考えてるの?」


「・・・・もしかしたらそうなんじゃないのかと思ってます」


由美さんは大きくため息を吐く。


「それは雫ちゃんの事を考えているんじゃなくて、雫ちゃんに真っ向から嫌われるのを怖がっているだけでしょ」


心臓が大きく跳ねるのを感じた。


「私は雫ちゃんの見方だからはっきり言うわ、ちゃんと謝って雫ちゃんと仲直りしなさい。油崎くんが雫ちゃんの事をちゃんと考えているなら、そうしなさい」


由美さんの瞳はしっかりと俺を捉え離さなかった。


その瞳を見て、俺は決心した。


「今日ちゃんと話し合って、謝りたいと思います」


「ちょっとは覚悟が決まったみたいね」


「でも、雫に避けられているので、どうすれば話し合えるのか・・・」


由美さんのおかげで覚悟は決まったが、今の雫は口もきいてくれない状況だ。


そんな雫にどうすれば話し合えるのか。


「それは私に任せなさい、何とかするから。油崎くんは謝る事だけを考えておいて」


由美さんがどのようにして俺と雫を話合わせるのかは分からないが、今は由美さんを信じて俺は精一杯雫に謝る事だけを考えよう。


「勝負は今晩の花火大会よ」


そして、華やかな花火大会は静かなる緊張感とともに始まった。

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幼馴染を好きになる瞬間 よもぎ @sakurasakukoro22121

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