第20話 合宿3

合宿1日目の夜、俺はベットで眠れずにいた。


ベットの中で俺はずっと、雫の事を考えていた。


考えるたびにあの時の事を後悔して、やり直したいと思ってしまう。


数時間前、俺は雫と一緒に肝試しに行き彼女にキスをした。


あの時のキスは、事故や互いに同意したうえでやったわけではなく、俺が一方的に無理やりしたもの。


あの一瞬の場面や感覚は今でもちゃんと覚えている。


そして、泣いていた雫の顔もはっきりと覚えている。


ベットの中でずっと、あの時の雫の表情がフラッシュバックする。


あの時どうして俺は雫にキスをしてしまったのか。


雰囲気に流されたから?


そうだとしたら俺は最低な奴だ。


自分だけが一方的に雰囲気に流されて、無理やり彼女にキスをしたのだから。


もしかするとあれは、雫にとっても初めてのキスだったのかもしれない。


もしそうだとしたら、俺は彼女の人生に一度だけの機会を奪ったことになる。


好きでもない男子に無理やりキスをされるのって、どんな気分なのだろうか。


そんなの胸糞悪いに決まっている。


その胸糞悪いことを俺は雫にしてしまった。


俺は雫を傷つけてしまったんだ。


とても大切な友達を、俺が傷つけてしまったんだ。


いくら後悔してもあの時をやり直すことはできない。


ならば、俺がすべきことは雫に謝る事だ。


でも、なんて声をかけて謝罪すればいいのか分からない。


謝ったとしても許してもらえるかも分からない。


俺達はもう元の友達という関係には戻れないかもしれない。


俺は怖かった。


どう声をかければいいのか、あの時の事をどう説明すればいいのか、謝れば許してもらえるのか、何もかも分からないから。


考えて考えて結局どうしていいかわからず、俺はベットから起き上がった。


結局考えていてもどうしていいのか分からないし眠ることも出来なかったので、俺は夜風に当たるため外に行く。






夏とはいえ夜の森は少し冷えていて肌寒く感じた。


俺はどこに向かうでもなく適当に歩く。


しばらく歩いていると、虫の音に混ざるように川の流れる音が聞こえてきた。


どうやら俺は今日訪れた川の傍まで来ていたようだ。


俺はその音に導かれるように、川に向かった。


導かれたように川辺に訪れた俺は腰を下ろす。


川の水は夜空の星と月の光を反射しながら流れている。


俺はその様子を見つめていた。


カサカサ。


川の流れる音を聞いていると、後ろの茂みからカサカサという音が聞こえてきた。


気配が段々と近づいて来て、そして俺の前にその人物が現れた。


「遥・・・・」


俺の前に現れたのは、セミロングの髪を束ねた遥だった。


「たまたま見かけてついて来たけど、こんな所で何してるの海斗?」


「眠れずに歩いてたら、ここに来てた」


「そっか・・・・」


遥は俺の隣に座る。


「肝試しの後から二人とも元気ないよね」


「え?」


肝試しが終わった後、俺と雫は遥達と合流して別荘に戻ったが、その時は何も言われなかった。


皆と合流した後も雫は何事もなかったようにみんなと接していた。


だから俺も、雫とあったことは何も言わなかった。


けどまさか気づかれていたとは。


「何があったの?」


「それは・・・」


答えずらい質問だった。


俺は遥に肝試しの時に起きた事を言うか迷う。


「海斗はそれを言いたくないかもしれないけど、私は絶対に聞くよ」


遥は俺の目をまっすぐに見つめ、そう言った。


「言いたくない事でもか?」


「うん」


「どうしてそんなに聞き出そうとするんだ?」


「それは、私が二人の友達で・・・・海斗の幼馴染だから」


「俺達は幼馴染かもしれないけど、今の俺には関係ない事だよ」


「海斗の中では、私との思い出は無いかもしれない。でもね、私は知ってるよ」


「何を?」


遥が俺を優しく包み込む。


遥のぬくもりが頭から伝わってきたが、それが少し怖くもあった。


俺は傷つけた側なんだから、慰められていいわけがない。


でも体に力は入らず、そこから離れられなかった。


「私は知ってるよ。海斗が悩んでいて辛い時は全部自分で抱えてしまうこと。そういう時は大抵、何にもうまくいかなかったこと。そしてね、本当はその苦しみを誰かに伝えたいってことも」


「それは、俺が幼馴染だからか?」


「海斗が変わらずに海斗だったからだよ」


「・・・・そっか」


俺は観念して遥に肝試しの時に起きたことを全て伝えた。


遥はそんな俺の話を静かに聞いてくれた。


最低な話なのに遥は頷きながら聞いてくれた。


「辛かったね」


「・・・・俺を𠮟らないのか」


「叱ってほしいの?」


たぶん俺は、心のどこかで叱って欲しいと思っていた。


でも遥は俺を叱ろうとしなかった。


それが遥から俺への罰なんだろう。


「海斗は雫ちゃんが好きなんだね」


「俺は・・・・、雫を傷つけたんだ」


「そうだね。でも、好きって気持ちは人を傷つける事だってあるんだよ。その感情から逃げないで、やってしまったことから目を逸らさないで。怖いかもしれないけど、雫ちゃんをちゃんと見てあげて」


「雫をちゃんと見る・・・・」


俺は自分がやった事を後悔して目を逸らそうとしていた。


結局は俺が悩んでいたことは、雫のためじゃなくて俺自身のためだった。


でも、本当に必要なのは雫の事を考えることだ。


「俺は雫にどう謝罪すればいいんだろう」


「それは私が教える事じゃないよ」


甘いようで、遥は俺に厳しかった。


しかし、遥は続けるように言う。


「一つだけアドバイスするなら、自分で全てを考えようとしないで。謝罪って言うのはね、一人で完結するものじゃないんだよ。必ず誰かに向けてやるものなの。だから、」


その続きは言ってくれなかった。


でも俺にはそれで十分だった。


自分がこれから何をすればいいのか、少しだけ分かった気がするから。


「ありがとうな遥。相談してよかった」


「・・・うん」


俺は立ち上がり遥に手を差し伸べる。


「私はもう少しここにいるよ」


しかし遥は首を振り、俺の手を掴まなかった。


遥が一人になるのが心配だったので俺ももう少しここに残ることにする。


「じゃあ俺ももう少しここに居るよ」


しかし遥は再び首を振り、その提案を拒否した。


「海斗は先に戻ってて。少し一人になりたい気分だから」


「・・・わかった」


結局俺は遥をその場に残し一人で別荘に戻った。


帰り際、振り返って見た遥の背中が少しだけ悲しそうに見えた。






次の日の朝、由美さんは俺達を起こして招集した。


そして皆が集まり、由美さんは話し始める。


「今日から合宿の本題をやるわよ。今回行うことは、部員のお悩み解決」


こうして合宿の二日目は始まった。

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