第18話 合宿1
皆がお見舞いに来た次の日の朝には、熱は下がり俺は完全復活していた。
体調が良くなったおかげでダルく感じていた体はとても軽くなり、そしてそれから数日が経ち、俺達は合宿の当日を迎えていた。
俺は前日に準備しておいた荷物を持ち、しばらくの間離れる事になる家族に挨拶をすまし家を後にする。
待ち合わせの駅に着くと皆すでに集まっており、俺が一番最後に到着したらしい。
「おはよう」
俺達は挨拶をすまして電車に乗り、一度電車を降りてから新幹線に乗り換え、そのまま新幹線を使い目的地に向かう。
目的地に着くまではそれなりに時間があり、俺達はその間トランプで時間をつぶしていた。
人数もそれなりに居たので、大富豪で遊ぶことになった。
最初に配られた手札を確認し、弱いカードを左から順に並べていく。
配られた手札はあまり強くないが、戦えないほどでもない。
順々に手番を回していき、中盤に差し掛かった。
俺はあまり強いカードを使わずに残しており、手札を確認しこの後の展開を組み立てる。
しかし、遥の次の一手により予想外の展開に発展する。
「革命」
その一手はルールを全てひっくり返すものだった。
俺の手札にあった最強のカード達は最弱のカードに変化する。
そして俺は、最弱の手札を抱えたままゲームは終了した。
結局一試合目は最下位の大貧民になり、二試合目は大貧民というハンデを抱えた状態でスタートした。
その後も試合は続いたが、俺の大貧民という立場は変わる事が無く、結局最後まで俺は大貧民のまま試合は終わった。
「海斗弱すぎだろ」
「うっせーよ」
あまりに負けが続いたため、傑にからかわれる。
からかわれるのは悔しいが、俺自身も正直ここまで負けが続くとは思わなかった。
俺の次に順位が低かったのは雫だったが、それでも俺は一度も雫に勝てなかった。
しかし、俺が雫に勝てなかった理由は一つあり、それは雫の隣に座っている由美さんのせいだ。
由美さんは全ての試合を高順位で上がり、その後かならず雫のアドバイスに回っていた。
そのためか、雫が最下位になることは一度も無かった。
由美さんが雫にアドバイスしていたのにも理由がある。
それは、雫があまり大富豪をやり慣れていなかったためだ。
みんな同意のうえでのアドバイスだったので、俺達は特に気にしなかったが、まさかそのせいで俺が全試合負けるとは思わなかった。
まあ、由美さんのアドバイスを負けた言い訳にするのはズルいか。
皆で大富豪を遊んだ後は、たわいのない雑談をした。
本当にたわいのない雑談だったが、続けているうちにいつの間にか目的の駅に到着していた。
俺達は駅を降りた後、由美さんがあらかじめ依頼していた車に乗り、由美さんのお父さんが所有している別荘に向かった。
しばらく走ると目的地に到着し、俺達は車から降りて荷物を別荘に運んだ。
「別荘広いっすね」
「そうかな?」
「私、こんな別荘憧れちゃいます」
「まあ、私のものじゃないんだけどね」
苦笑いを浮かべる由美さん。
「それよりも、みんな荷物を部屋に置いてきて」
「そういえば、この後何するんですか?」
「今日はもう皆疲れていると思うから、近くの川辺で休みがてら遊びに行きたいと思う。どうかな?」
由美さんの話では、ここから10分程歩けば川辺に着くらしい。
川の水は触ると冷たくて気持ちよく、流れる川の音も聴いていて心地よいらしい。
「私は行ってみたいです」
「俺も疲れたんで、それでいいです」
由美さんの話は何だかんだ皆にとって魅力的な話であり、だからこそ誰一人反対する人はいなかった。
俺達は荷物を部屋に運んだあと、さっそく川に向かう。
向かう途中周りの木々が日陰を作り、少し涼しく感じた。
しかし同時に、普段よりも多くの数の蚊に鬱陶しさも感じていた。
そんな事を考えながらしばらく歩いていると、川の流れる音が聞こえてきた。
さらに足を進めると少し景色が開き、涼しそうな川辺に到着した。
「川に来たんだし、足だけでも水に浸かってみない?」
「いいっすね」
「私も行きたいです」
由美さんの提案に、傑と遥が同意する。
「私、少し疲れたので休んでいますね」
「俺もちょっと休みますね」
俺と雫は歩き疲れたので、傍で休むことにした。
「みんな楽しそう」
「そうだな」
俺と雫は川辺で遊んでいる由美さん達を見つめる。
みんな私服だったが、服装関係なしに水をかけあっていた。
俺はそんな姿を見て、川辺で楽しそうに遊ぶ姿が羨ましいと思うと同時に、今こうやって休んでいる時間も悪くないと思った。
「海斗君はあっち行かなくていいの?」
しばらく由美さん達をボーと見つめていたら、雫に声をかけられた。
「俺はこっちの方が落ち着くかも」
俺は素直な感想を雫に伝える。
「そっか」
それからしばらくの間、俺達は無言で過ごした。
無言の時間はだいぶ長く続いたが、特に気まずさなどは感じず、むしろ俺はそんな時間が心地よく思えた。
そして、そのまま時間が流れた。
「そろそろ戻りましょ」
「はいーっす」
しばらく川辺で時間を過ごしていたが、いい時間になったので俺達は別荘に戻ることにした。
川から上がった遥が俺の方に近づいてくる。
「海斗はいいの?あっちで遊ばなくて」
「俺はこっちで休んでる方が性に合ってるからな」
「ふーん。てか、なんでこっち見てくれないの?」
俺は先程から遥を見ることが出来なかった。
なぜならば、
「透けてるぞ・・・・」
水にぬれたシャツが透けてしまい、中に着ていた下着が見えていたからだ。
遥は遊ぶのに夢中で気づいていなかったかもしれないが、俺に言われ冷静に自分の身なりを確かめると、顔を赤らめ急いで腕で透けている部分を隠した。
「早く言ってよ、バカ!」
結局、替えの服は誰も持ってきていなかったため、川で遊んでいたメンバーは濡れた状態で別荘まで戻った。
別荘に戻った後はお腹が空いていたため、俺達は急いで夕飯の準備に取り掛かった。
あらかじめ夕食用の食材は用意されており、俺達は比較的に簡単に作れるカレーを作ることにする。
料理が得意な由美さんと遥がいたおかげで、俺達はカレーをスムーズに美味しく作る事が出来た。
「おいしかった」
「自分たちで作ったカレーってマジ上手いよな」
「ほんとな」
お皿洗いまで終わらせので、俺達は少し休憩していた。
「海斗と伊吹君はほとんど何もしていなかった気がするけど」
「いやいや、俺達だってお皿の準備したよな」
「ついでにお皿のかたずけもやったぞ」
「料理関係ないし」
「確かに」
何だかんだ、料理を作ってたのは女子組だった。
まあそれでも、貢献してたことには変わりないけど。
食べおえた後に喋りながら休憩していたが、徐々に睡魔が俺を襲ってきた。
しかし、俺の眠気は次の由美さんの一言で消し飛ぶ。
「この後は皆で肝試しに行くわよ」
そして俺達は、肝試しに行くことになった。
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