第17話 俺と熱と夏休み
「皆さん羽目を外ずし過ぎないようにしてくださいね」
教師の一言とともに、俺の夏休みは始まった。
学生の特権である長いお休みに期待を膨らませ、名一杯楽しもうと息巻いていたが、夏休み初日。
俺は高熱を出し、家で一人ベットの上で寝込んでいた。
今日はもともと傑と遊ぶ約束をしていたのだが、あさ目が覚めベットから起き上がった時、体がやけに重く視界がクラクラした。
まさかと思い、体温計を使い熱を測ってみたら39度と表示されており、予想通り高熱を出してしまった。
傑に風邪を移すわけにもいかないので、今日は行けそうにない事を本人に伝え、俺は家で休養を取ることにする。
傑に連絡を入れてからしばらくの間、俺はベットの上で横たわり寝ていた。
しばらく寝ていたら、体調もそこそこ良くなり体力がだいぶ回復した。
少しダルさは残っているが、朝に比べたらだいぶ良くなったと思う。
体調も少し良くなったので、俺は起き上がりベットの横に置いてあったスマホを開く。
スマホの画面を見て、傑からメッセージが送られていたことに気づく。
内容を確認すると、後でお見舞いに来るとのことだった。
風邪をうつしちゃったら悪いと思い、俺は来なくていいと傑にメッセージを送ろうとしたが、メッセージは俺が寝ていた時に送られており、スマホで時間を確かめて見ると、傑がお見舞に来る予定時間までもうすぐだった。
ピーンポーン。
下の階で母親がインターホンを対応しているのが分かった。
そして階段を上る音が聞こえ、俺の部屋の扉が開いた。
「大丈夫か?海斗」
やはり、インターホンの相手はお見舞いに来た傑だった。
しかし、その後ろにはもう一人、人影があった。
「熱だしたって聞いたけど大丈夫?」
傑の後ろに居たのは遥だった。
どうやら傑が遥に俺が熱を出したという連絡をしたらしく、そしたら一緒にお見舞いに行きたいと言われたらしい。
たかが熱を出したぐらいだし他の人に風邪を移してしまうのが怖かったので、俺のお見舞いには来なくていいのにと思っていたが、いざ二人がお見舞いに来てくれるとやはり嬉しかった。
俺はそんな二人に感謝の気持ちを伝える。
「二人ともお見舞いに来てくれてありがとう」
「おう。それより体調は良くなったのか?」
「少し寝たら、だいぶ良くなったよ」
「よかった」
遥は胸をなで下ろした。
そして、右手に持っていたビニール袋を俺に渡す。
「さっきコンビニで買って来たから、喉が渇いたら飲んでね」
袋の中身を確認すると、スポーツドリンクと小さいゼリーがいくつか入っていた。
「実は俺も買ってきたんだ」
傑は微妙な笑いを浮かべながら、同じく右手に持っていた袋を俺に渡す。
俺はそれを受け取り、その中身を確かめて見る。
中身はさっき遥に貰った物と似ているが、傑から受け取った袋の中にはチョコレートのお菓子なども一緒に入っていた。
「二人とも本当にありがとう」
俺は貰ったスポーツドリンクを一つ取り、キャップを取り一口飲む。
少し冷えた液体が口から入り、体を循環するように、喉から全身にかけて潤す。
スポーツドリンクを一口飲んで、二人のお茶を用意していなかったことに気づく。
「二人のお茶用意していなかったな。今用意するから待ってて」
「俺達の事は気にするなよ。どうせすぐに帰るし」
「海斗は私達の事を気にせずに、ちゃんと休んでて」
俺はお茶を用意するために、立ち上がろうとしたが二人に止められた。
二人は俺を気遣ってか遠慮したのだろう。
「そうだ。由美さんから伝言預かってるんだった」
「由美さんから?」
由美さんはいま合宿に向けた準備をしており、忙しそうにしている。
そんな中わざわざメッセージをくれるなんてありがたい。
「今日はお見舞いに行けなくてごめんね、1週間後の合宿までに体調をちゃんと直す様に。だってよ」
「そうだよな、合宿もあるし急いで直さないとな」
何をするのかは聞かされていないが、俺自身も合宿は楽しみではあった。
「ゴホ、ゴホ」
「大丈夫海斗?」
遥が心配そうに俺を見つめる。
俺は片手で口を塞ぎ、もう片方の手で大丈夫だと遥に合図する。
「俺達はそろそろ帰るか」
「そうだね」
「もう帰るのか?」
傑達が家に来てから、まだ30分も経っていなかった。
「もともと長居するつもりも無かったからな」
「私たちが居たら、気になってちゃんと休めないでしょ」
「わざわざ来てもらったのに、ごめんな」
「気にするなって」
「何かあったらいつでも私の所に連絡してね。すぐに駆け付けるから」
「二人ともありがとう」
二人とは部屋でお別れし、俺は再びベットに横たわり眠りについた。
「・・・・ん」
再び目を覚ますと、時間はだいぶ過ぎており部屋が暗くなっていた。
電気を付けるため起き上ろうとしたが、ふと左手に違和感を感じた。
違和感の正体を確かめるために左手を見て見ると、そこに俺の手を握った雫が居た。
雫は俺の左手を握ったまま、どうやら眠ってしまったらしい。
いつから俺の部屋に居たのかは分からないが、寝てしまったてことは、そうとう前から居たと予想できる。
俺は雫を起こさないように、握られている彼女の手をそっと離そうとした。
しかし俺の手はしっかりと握られており、簡単に離すことが出来なかった。
しょうがないので、俺はしばらくの間そのままにすることにした。
部屋に静寂が流れる。
そう言えば以前にもこんな風に手を握られた気がする。
いつの出来事なのかと思い出そうとしたが、それがいつの事なのかは思い出せなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋の窓にはカーテンが付いていたが、カーテンが開いていたため、窓から月明かりが入って来る。
月明かりが部屋に差し込み、俺の傍にいた雫を優しく照らす。
雫の寝顔が月明かりによって、鮮明に映し出される。
とても心地よさそうに寝ていた。
俺は優しく雫の頭を撫でる。
「スゥ・・・・・」
一向に起きる気配がない。
月明かりに照らされた雫の寝顔が子猫の様に愛らしく、俺はついちょっかいをかけたくなり、彼女のほっぺを指でツンツンしてしまう。
すると、雫は少し不服そうな顔をした。
「フッ・・」
寝ているのにこんな反応するんだなと思い、俺は少し笑ってしまう。
指で触れた彼女のほっぺは、とっても柔らかくてぷにぷにしていた。
雫のほっぺってこんなにもスベスベで柔らかいのか。
俺は更に雫の鼻の先端を触ってみる。
「!・・・・・」
すると、彼女は体を一瞬ピクッとさせた。
流石に起きるかと思ったが、それでも雫は目を覚まさない。
ふと俺の視線は、彼女の可愛らしい唇の方に向く。
そして、人差し指で触れてみた。
「う・・・・」
そこで雫は目を覚ました。
俺はすぐに人差し指を彼女の唇から離す。
「海斗君?」
雫は虚ろな目で少しボーとしていた。
「おはよう雫」
「私いつの間にか寝ちゃってた」
「とても、気持ちよさそうに寝ていたぞ」
「・・・・」
月明かりに照らされた彼女の頬が少しだけ紅潮した。
「雫申し訳ないんだけど、手を離してもらえないか?」
「ご、ごめん・・・」
彼女の顔は更に赤くなって行き、真っ白な肌は真っ赤に染まる。
俺はベットから起き上がり、部屋の電気をつけようとした。
「まって・・・・」
しかし、雫が再び俺の手を握り止められる。
「いま電気付けないで欲しい・・・」
「どうして?」
「・・・・・顔見られたくないから」
顔を俯かせた雫が、ボソッと言う。
月明かりで雫の顔が真っ赤に染まっていることは分かっていたが、それでも彼女は電気をつけて欲しくないみたいだ。
「わかった」
少しの間、暗い部屋に無言の時間が流れる。
「もう大丈夫」
俺は部屋の明かりをつける。
「それよりも、海斗君体調はどう?」
「だいぶ良くなったよ」
「そっか」
雫が優しく微笑む。
「あっ」
「どうしたの?」
そこで俺は思い出した。
俺はさっきまで握られていた手の感触を思い返す。
それは以前俺が事故に遭い、病室で寝ていた時に感じた手の感触と一緒だった。
そうだ、あの時も雫は俺を見守っていたんだ。
そして俺が目覚めた時、優しく微笑んでくれていた。
俺は結局、雫にあの時の感謝を伝えたことが無かった気がする。
「ありがとうな雫。あの時も今日も」
「・・・うん?」
雫は不思議そうな顔をしていた。
少し口下手だったかもしれないな。
雫は窓から外を見て、自分のスマホを開き時間を確かめる。
「海斗君のお見舞いも出来たし、私はそろそろ帰るね」
「本当にありがとう」
「うん。海斗君がちゃんと体調を直したら、また一緒に遊ぼうね」
「うん」
体調もだいぶ良くなったので、俺は雫と一緒に玄関まで行きお見送りする。
雫を見送った後に自分の部屋に戻ると、机の上に3つの袋が置いてあることに気づく。
中を見て見ると、やはりスポーツドリンクとゼリーが入っていた。
帰り道。
月明かりが一人の少女を照らしていた。
少女は顔を少し赤らめ、自分の人差し指を唇に当てていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます