第16話 プール2

揺れる水面とそこに反射する太陽の光。


水着を着た人達が、水の中を泳ぎ、その傍を歩いている。


俺達は今、プールに来ている。


「みんな遅いな」


「たしかに」


いま俺と傑は、遥たち女子部員組が更衣室から出てくるのを待っていた。


俺達が着替え終えてから10分程が過ぎたが、いまだに来る気配が無い。


遥たちに何かあったのではないかと考えたが、それは杞憂に終わる。


「二人ともお待たせ」


「遅いっすよ由美さん」


「二人ともごめんね。それより、何か私達に言う事があるんじゃない?」


由美さんは胸の前で腕を組み、二ヤリと笑う。


腕を組んだせいで、黒ビキニの胸が協調され自然に目が行ってしまう。


「どこ見てるのよ!」


バシッ!!


由美さんと一緒に来ていた遥に、後頭部を思いっきり叩かれた。


「いきなり叩くことないだろ」


「知らない」


プイっと顔を背ける遥。


数日前まで優しく接してくれていた遥が、嘘のようだ。


まあ、俺はこうやって接してくれる方が嬉しんだが。


「それで、」


「?」


遥が何やらソワソワした感じで、俺をチラチラ見ている。


「かんそうは?」


遥が何を言いたいのか、よく分からなかった。


とりあえず俺は「感想」というキーワードを頼りに、何を言おうとしているのかを推測する。


もしかして、


「由美さんの水着めっちゃ大人っぽくって、似合ってます」


ペチン!!


遥の平手が俺の背中に炸裂する。


「いってぇ-!」


「海斗なんて、もう知らない!!」


遥はそう言うと、そのままどっかに行ってしまった。


「今のは海斗が悪いな」


「そうね」


傑だけじゃなく由美さんにまで、責められるとは。


俺は遥に聞かれたから、由美さんの水着について感想を言ったのに。


あれ?なぜ遥は由美さんの水着について、感想を聞いてきたんだ?


「あの・・・」


遥に怒られた理由を考えていると、いつの間にか隣に居た雫に、声をかけられた。


「お待たせ・・・」


雫は少し恥ずかしそうにモジモジしながら、チラチラと俺の方を見ていた。


しかし、俺の中では雫がモジモジしている事よりも、彼女の水着姿がとても魅力的だった事が印象的で、目が離せなかった。


雫が着ていた水着のデザインは、上部がフリルで下部がスカートという、ビキニタイプの水着だった。


着ていた水着が雫の真っ白な素肌を強調しており、本当にきれいだった。


「あの海斗君、ジッと見られるのは恥ずかしい・・・」


「ご、ごめん・・・」


俺は急いで雫から目を逸らす。


「あの~お二人さん、俺達が居ることも忘れないで欲しいんですけど」


「あ、あー、そうだったな」


周りが見えず二人だけの世界に入っていた俺と雫に、ツッコミを入れる傑。


傑と由美さんをスルーしていた事は悪いと思うが、やはり俺は雫の水着姿に、まだドキドキしていた。


「それよりも、油崎くんは遥ちゃん追いかけなくていいの?」


ドキドキしていた俺の思考を、リセットさせたのは由美さんのその一言だった。


俺が怒らせたんだし、放っておけないよな。


「俺、探しに行ってきますね」


「うん。行ってこい」


由美さんが俺の言葉にうなずく。


俺は遥を追いかけるために走り出す。


「そこ、走らないで」


「す、すみません」


走っていたところを、近くにいたプールの監視員に見られ注意される。


監視員に注意されたので、俺は走るのを止めて、少し早歩きで遥を探しに向かった。


「しまらないっすね、海斗のやつ」


「そうね。まあ、遥ちゃんの事は油崎くんに任せて、私たちは泳ぎに行きましょ」


「・・・はい」


雫は離れていく海斗の背中を見つめ、小さく頷いた。






別れてからそんなに時間は経っていないと思うのだが、遥のやつどこに行ったんだ?


俺は周りを見渡しながら、必死に遥を探していた。


しかし、この広いプールの園内には人が沢山いて、遥をすぐに見つけることが出来なかった。


俺は諦めずに遥を探し続けた。


そして俺は、フードコーナー近くに居た遥を見つける。


しかしそこに立っていた遥は、チャラそうな男達に囲まれており、苦笑いを浮かべていた。


俺はそんな様子が見ていられなく遥に近づく。


「ねぇ、いいじゃん。俺達と遊びに行こうよ」


「ごめんなさい。友達が待っているので行けないです」


「友達って俺らの事っしょ?それなら、問題ないじゃん」


男たちはゲラゲラと笑っていた。


一向に立ち去ってくれない男達に苛立ちを覚え、遥は男達から離れようとする。


しかし、離れようとした遥の腕を、男の一人がつかむ。


「俺達と一緒に来てくれたら、いい事してあげるよ」


「俺らカワイ子ちゃん大歓迎だから」


「あの本当にやめ・・・・」


遥が言い終えるよりも先に俺は、遥の腕を掴んでいた男を殴り飛ばしていた。


殴られた男は、勢いよく後ろに倒れる。


「痛ってぇー。てめぇーなにしやがる!」


倒れた男が俺を睨む。


俺はそんな事を気にせず遥の手を掴み、男達から遥を離すために自分の方へと引き寄せる。


遥の手を掴んだ時、彼女が震えていたことに気が付く。


だから俺は、遥に怖い思いをさせた男達を許せなかった。


「何しやがるだと?それはこっちのセリフだ!俺の幼馴染に触るんじゃねぇー!!」


俺の思考は男達への怒りで埋め尽くされ、それ以外の事を考えることが出来なかった。


「ふざけんなよ、このガキ」


男達は今にも殴り掛かりそうな勢いだった。


最悪、俺は他勢に対して殴り合う覚悟でいた。


しかしそこに、騒ぎに気が付いたプールの監視員が駆けつけて来た。


「君たち何してるんだ!」


「やべ、逃げるぞお前ら」


そんな監視員から逃げるように、倒れていた男は急いで立ち上がり、彼らは立ち去っていった。


監視員が俺達の方に近づく。


「君たちどうしたんだ?」


男達が逃げてしまったため、監視員は状況を知る俺達に状況を問いかける。


「あの、私があの人達に絡まれていて、それを助けてもらったんです」


「そうだったのか。男達が悪いにしても殴ったりするのは良くないからね。今回は見逃すけど、次は殴る前に僕たちを呼んでね」


「はい、ありがとうございます」


監視員はそう言うと、男達を追ってどっかに行ってしまった。


「ごめん遥、怖い思いさせちゃって」


事が終わり、俺の思考は冷静になる。


「ううん、海斗は何も悪くない。むしろ私は海斗が助けに来てくれた事が嬉しい。・・・嬉しいけど、もう私のために無茶はしないで」


「はるか・・・」


俺に笑顔を向ける遥。


今だってまだ手が震えているのに、遥は自分よりも俺の心配をしてくれている。


震えている遥を安心させたい、もっと俺に頼ってほしい。


だから俺は、そんな彼女を腕で包み込んだ。


「かいと・・・?」


「大丈夫、もう大丈夫だから」


「・・・うん」


遥の瞳から涙がこぼれる。


「本当は怖かった。怖かったよ・・・・」


遥は俺の胸に顔をうずめ、小さく震える声でそう言った。


「もう、大丈夫だから」


俺はそんな遥の頭を優しく撫でる。


そして、遥が落ち着くまで彼女を抱きしめ続けた。






「もう平気だよ」


俺は抱きしめていた腕を遥から離す。


「ありがとう海斗」


「うん・・・。それより、一つだけ言わせてもらってもいい」


「なに?」


俺はずっと言いたかったことを遥に伝える。


「水着とっても似合ってる」


遥が着ていた白いレースのビキニは、彼女の可愛さを十二分に引き出しており、本当に似合っていた。


可愛いという言葉は恥ずかしくて言えなかったが、それでも俺の素直な気持ちを遥に伝えたつもりだ。


しかし、それを聞いた遥はふきだす様に笑った。


「遅いわよ。バカ」


「遅いか?」


「遅い!それより、さっき私の事を幼馴染って呼ばなかった?」


「そうだっけ?」


「気づいてなかったの?」


「あの時は、怒りで我を忘れてた」


「そっか・・・。じゃあいいや」


遥はそれ以上、何も聞いてこなかった。


それよりも折角プールに来ているという事で、俺達は皆を探すついでに二人で遊ぶことにした。


一緒に泳いだり、水中の中で息止めを競ったり、水をかけあったり、ウォータースライダーに乗ったり、結局みんなと合流するまで俺達はたくさん遊んだ。


そして、皆と合流した頃にはもうだいぶ時間が過ぎており、俺達のプールはそこで幕を閉じた。






プールが終わり、俺達は服を着替えるために男女で別れ、男女で着替え終えた後、また皆で合流した。


そして皆が集まったのを確認し、由美さんはいちど咳ばらいをしてから言い出す。


「ここで一つ、皆に伝えたいことがあります。この夏休みに、皆で合宿を行いたいと思います」


この部活で合宿する必要があるのか?


そんな疑問を抱えながら、俺の長い一日は終わった。





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