そしてまた、俺の日常が始まる

第14話 遥と雫と勉強会

夏休みまえ最後の関門、期末試験。


その日まで一週間と差し迫っていた頃、俺は水森さんと神風と一緒に俺の部屋で勉強会を開いていた。


傑と由美さんも誘ったのだが、二人は最近忙しいらしく今日は来れなかったみたいだ。


まあ、あの二人なら勉強なんてしなくても大丈夫そうだが。


傑も由実さんも実は頭がよく、テスト前は毎回余裕そうな顔をしている。


なので今回は、俺達だけで勉強会を開くことになった。


室内に冷房をつけ、部屋にあるテーブルを三人で囲い、俺達は士気を高めるために一度気合いを入れる。


「一緒に頑張るぞ」


「おー」


「はい」


こうして、俺達の勉強会はスタートした。






俺はまず、比較的得意教科である数学から始めることにした。


始めの方はスラスラとペンを動かしていたが、途中で分からない部分が出てきた。


「水森さん数学で少し教えて欲しい部分があるんだけどいい?」


「いいよ。どこが分からないの?」


せっかく皆で勉強会を開いているという事で、数学が得意だと言っていた水森さんにその範囲を聞いてみる。


俺は教科書に書いてあった数学の方式を持っていたペンで指しながら、この部分を教えて欲しいとお願いする。


「おっけい、そこね」


その部分を教えるために水森さんは一度立ち上がり、俺の横に座る。


水森さんが俺の横に座った時、一瞬髪がふんわりと浮き上がり、シャンプーのいい匂いがした。


「ここはね、この式を変形させて・・・・・」


そこからは、隣に座っている水森さんを女の子だと意識してしまい、まったく内容が入ってこなかった。


水森さんって、普段から可愛いとは思っていたけど、近くで見るとさらに破壊力が増すのか。


俺、本当にこんな可愛い女の子と幼馴染だったのか?


「ねえ海斗、聞いてる?」


「ご、ごめん。水森さん」


「もおー、折角教えてあげてるんだからちゃんと聞いてよね」


「ごめん」


「まあいいけど、・・・何考えてたかは教えてよ」


「それは・・・・」


やばい言えない、言えるわけがない、水森さんが隣にいてドキドキしてたなんて。


「なに~もしかして私が隣に座ってたからドキドキしてたの?」


なぜわかった、俺が考えている事を。


これが幼馴染パワーという奴なのか?


「え?もしかして、本当に?」


「・・・ま、まあ」


水森さんの顔は見る見るうちに赤くなっていく。


どうやら、さっきの発言は冗談で言っていたらしい。


てっきり、幼馴染特有の能力だと思ったが、違ったみたいだ。


「水森さん顔、真っ赤っ赤だけど大丈夫?」


「バカ、誰のせいだと思ってるのよ!」


水森さんにポコポコと頭を叩かれる。


「ご、ごめんって」


俺は腕を頭の上に置き、自分の頭を守りながら、必死に水森さんに謝った。


「・・・・・」


神風と目が合った。


彼女はペンを持ったまま、こちらの方をジーっと見つめていた。


「勉強の邪魔してごめんね、雫ちゃん」


「大丈夫だよ、遥ちゃん」


水森さんも神風の視線に気が付き、うるさくしてしまったことを素直に謝る。


てか、二人はいつから下の名前で呼び合う関係になってたんだ?


少し気になったが、今は聞かない事にする。


「・・・・・」


「神風?」


神風はなぜか俺をジーっと見つめたまま動かない。


と、思ったら、急に立ち上がり俺の隣に座った。


「あのー、かみかぜ?」


「・・・・名前」


「なまえ?」


「私の事、名前で呼んで欲しい」


なぜか急に名前で呼んで欲しいと言われた。


友達としてもっと仲良くなりたいって事なのか?


まあ本人がそういうならと、俺は彼女の名前を呼ぶことにする。


「しずく」


「・・・・うん」


名前を呼ばれ、恥ずかしそうに俯く雫。


そんな雫の姿を見て、なんだか俺まで恥ずかしくなった。


ムギュッ。


「痛って!」


横に座っていた水森さんにつねられる。


「なんで俺つねられたの?」


「・・・・ムカついたから」


「理不尽すぎませんか?」と、ツッコミたくなったが、またつねられると思い、心のうちに留めておく。


「それより、私は?」


「え?」


前後の文が無さ過ぎて何を言いたいのか分からなかった。


「・・・なまえ」


水森さんはそっぽを向きながら、ポツリと呟いた。


それで何を言いたいのか理解した。


「・・・・遥、さん」


「さんはいらない!」


普段さん付けで呼んでいたため、さんを外すだけでも少し恥ずかしかった。


「・・・・はるか」


「・・・・うん」


俺は遥の顔を見ることが出来なかった。


たぶん遥も・・・。


しばらくの間、静寂が流れた。


静寂を打ち破ったのは、腕に感じたムニっとした感触だった。


見てみると、雫が俺の腕に抱き着いていた。


むにゅ。


今度は反対側の腕に、柔らかい感触が来た。


さっきよりも弾力があり、包み込まれるような感触だった。


二人に両腕を占拠され、俺は動けなくなる。


「あのー、お二人さん。そろそろ放してくれないですか?これじゃあ勉強ができないんですけど」


「雫ちゃん、海斗が放して欲しいって言ってるよ」


「海斗君の利き手は遥ちゃんの方だから、そっちが放せばいいと思う」


二人は俺を間に挟む形で、バチバチと火花を散らしていた。


何でこうなった?


結局この日はそれ以上、勉強をすることが出来なかった。

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