第12話 私と海斗

きょう私は土壌くんと別れた。


初めての彼氏はとっても優しくて私の事を大切にしてくれてたけど、私はやっぱり海斗が好きでこの気持ちを諦めきれなかった。


土壌くんには申し訳ないことをしたと思っている。


だけどもう私は後悔しないし迷よわない。


そうして土壌くんと別れた後、私はすぐに海斗の所に向かった。


どうすれば海斗の記憶が戻るのか、どうすれば海斗にとっての幼馴染に戻れるのか、今の私には何一つわからない。


でも、私の中で海斗が好きだという気持ちが制御できず暴走して足は勝手に走り出していた。


この答えを出すためにも海斗に会う必要があると思う。


海斗に会えば何かわかるかもしれない。






海斗の家に着いた私は一旦深呼吸してから崩れてしまった前髪を整える。


「よっし」


「何が良しなの?」


「うわっ」


突然声を掛けられビックリした私は体制を崩してしりもちを着く。


「大丈夫?」


「う、うん」


声をかけてくれたのは私が会いに来た目的の人物である海斗だった。


海斗は私に優しく手を差し伸べる。


しかし、なぜか海斗は私から顔を背けている。


「なんで、顔を合わせてくれないの?」


「その水森さんの見えてるから・・・・」


「見えてる?」


私は視線を下に移し気づく。


スカートがめくれていたのだ。


私は急いで立ち上がりめくれていたスカートを元に戻す。


恥ずかしくなってしまい私も海斗と目を合わせられない。


「・・・とりあえず中に入る?」


「・・・うん」


お互い目を逸らしたまま言葉のやり取りをする。


海斗に案内され私は海斗の部屋に入る。


「お茶用意するからちょっと待ってて」


「うん・・・」


海斗はお茶を取りに部屋を離れる。


事故以来も海斗の家には頻繁に訪れていたけど、二人っきりは初めてかもしれない。


海斗の部屋を見渡す。


やっぱり落ち着くな。


見慣れた部屋のレイアウトと海斗のにおい。


昔っから変わらないこの場所が私は大好きだ。


頬から涙が零れ落ちる。


「あれ?わたし涙が・・・・」


「お待たせ。な、なんで水森さん泣いてるの」


海斗がお茶を持って戻ってきた。


泣いていた私に驚きながらも海斗は心配そうにこちらを見つめる。


「ごめんね海斗。少し懐かしくて」


「・・・俺たち幼馴染だもんね」


「そうだよ、私たち幼馴染なんだよ。だからいっぱいいっぱい沢山の思い出があって・・・」


「・・・うん」


海斗は私にそっとティッシュを渡してくれる。


私は受け取ったティッシュで涙を拭く。


懐かしい気持ちがこみ上げてきたけど、でもそれ以上に自分だけしか覚えていないと考えたら涙が溢れてきた。


「もしよかったら聞かせてくれないかな?水森さんの事を」


「私の事を?」


「・・・うん。知りたいんだ水森さんについて」


「・・・・・」


私は話すのを躊躇していた。


自分だけが知っている思い出を話してもただ虚しくなるだけではないかと思ったから。


「俺さ水森さんともっと仲良くなりたいって思ってるんだ。今日水森さんが家に来てくれた時、よく分からないけど嬉しかった。でも自分のせいで水森さんを泣かせたからすごく嫌な気持ちにもなった」


「かいと・・・」


「俺は昔の頃の水森さんを知らない。でもこれから仲良くなって、もっと沢山の思い出を増やしていくのはダメかな?」


「これから・・・・」


私は過去の思い出を大切にするあまり今目の前にいる海斗を見ていなかったのかもしれない。


過去ばかりに囚われていた私と違い海斗は今という時間を大切にしているんだ。


「ごめんね、私ちゃんと海斗の事考えてなかった。過去の海斗ばかりを考えていて、今目の前にいる油崎 海斗を観ようとしていなかった」


私は右手を海斗の前に差し出す。


「これからよろしくね」


海斗は私の手を握り返す。


「よろしく」


握手を交わした後、最近あった出来事を海斗に話した。


静香と真子と一緒にカラオケに行ったこと、今日土壌くんとデートに行ったこと、そこで別れたことも話した。


「どうして別れたの?」


「それは・・・」


別れた理由を聞かれてすぐに答えられなかった。


でも決心して伝える。


これ以上後悔したくないから。


「私が海斗の事を好きだから」


「え?」


顔が火照っていくのがわかる。


やっぱり恥ずかしい。


私はすぐに顔を背ける。


熱くなっている顔を海斗に見せたくなかったから。


横目で海斗の顔をチラッと見てみると、海斗も顔を赤くしていた。


それが、余計に恥ずかしかった。


「でも勘違いしないでね、私が好きなのは昔の幼馴染だった海斗の事だから。今の海斗については何とも思ってないから」


「・・・そうなんだ」


私のバカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


何とも思っていないわけないじゃん。


今だってずっとドキドキしているし、海斗と付き合いたいし、け、け、けっこんして海斗のお嫁さんになりたいよ!!


でも、あんな話した後に好きって言っても昔の海斗しか見てないみたいになるじゃん!!


もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「とにかく今言ったことは忘れて」


「今言ったことって?」


「す、す、すきだって事よ。それぐらいわかるでしょ!!」


「いやいや、忘れろって言われても無理でしょ」


「とにかくわすれて!!!!」


今言ったことを忘れてもらうために海斗の頭をポカポカと叩く。


「痛い痛い、忘れるから。もう叩かないで」


「ほんとに?」


「うん、大丈夫だよ・・・・」


「私の目を見てちゃんと言ってよ!!!」


その日は忘れてもらえるまで海斗の頭を叩き続けた。


そして、海斗との時間はあっという間に過ぎていき私は家へと帰った。






次の日の午後。


授業が終わり何人かの生徒が帰り支度を済ませ帰っていく時間帯。


私はある場所に向かった。


ドアの前に立ち、一度深呼吸する。


そして思いっきりドアを開ける。


「私もこの部活に入れさせてください」


この日、私は海斗と同じお悩み解決部に入部した。


今私の目の前にいる海斗とこれからもっと仲良くなるために。

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