第11話 私と彼氏

日曜日の朝。


私は今日、土壌くんとデートの約束をしていた。


集合場所は学生に人気の遊園地。


土壌くんと遊びに行くのは久々で、最近は会ってすらいない。


スマホでは連絡を取っていたが、それも頻繁にやっているわけではない。


だからなのか少し緊張していた。


パジャマを脱ぎ洋服に着替え、メイクをして髪をセットする。


小さめのショルダーバッグを肩に掛け私は集合場所に向かった。






集合場所は遊園地の最寄り駅前で、集合時間は11時。


遊園地の最寄り駅で電車から降り時刻を確かめる。


集合時間までは後15分ほどあった。


駅を出てみると、土壌くんは私より早く来ていた。


「久しぶりだね遥ちゃん」


「久しぶり土壌くん」


「元気だった?」


「元気だったよ、土壌くんは?」


「僕も元気だったよ」


「そっか」


「とりあえず、行こうか」


「うん」


私は土壌くんの隣を歩く。


歩いている途中、土壌くんは私の手を握り私もその手を握り返した。


「遥ちゃんと付き合ってから四カ月ぐらい経ったね」


「そんなに経ってたんだ」


「そうなんだよ。でも、僕たちあまり恋人らしいことしてこなかったと思うんだ」


「確かにそうだね」


「だからさ、もっと一緒に居たいなと思うんだけど。遥ちゃんはどう?」


確かに恋人と言うには不自然なほど、私たちは離れていた。


でもそれは、海斗の事故があったからだ。


あの事故は私のせいだから、少しでも海斗に謝罪と恩返しをしたかった。


それにはまず本人があの日の事を思い出す必要があると思った。


じゃないとちゃんとした謝罪にならない気がする。


なによりも私自身が納得できない。


「ごめんね、土壌くん。今は海斗に私の事を思い出してほしいから少しでも海斗のそばに居たいの。だから、あんまり一緒に居られない」


「・・・そうだよね、大事な幼馴染だもんね」


「ごめんね」


「僕は大丈夫だよ」


土壌くんは笑顔で許してくれた。


「でも、たまには今日みたいに誘ってもいいかな?」


「・・・・それなら大丈夫」


「よかった」


私たちは恋人なんだから、時々でも一緒に居なくっちゃ。


最寄駅から遊園地まではとても近い位置にあり、歩いて五分ぐらいで着いた。


私たちはチケットを買い中に入り、入園時に貰ったパンフレットを開きどうするか話し合った。


話し合いの結果、時刻は11時を少し過ぎているということで、少し軽めの乗り物にいくつか乗ってからお昼を食べることにした。


最初に乗ったのは室内をグルグル回る乗り物で、乗り物に乗っている間に可愛いキャラクター達が物語を繰り広げていた。


流れている音楽も物語もとっても可愛くてとても満足した。


次に乗ったのは船の形をした乗り物で放物線を描くように揺れていた。


最高点までに達すると地上からだいぶ離れてしまい、高いところがあまり得意ではない私は安全バーから手を離すことが出来なかった。


「はぁ~」


乗り終えた私は一息つく。


「もしかして、こういうの苦手だった?」


「うんん、大丈夫」


「本当に?とりあえず、お腹もすいてきたしご飯食べながら休憩しようか」


「うん」


私たちは乗り物から一番近い所にあるレストランに行き、ご飯を食べながらゆっくりとくつろいだ。


ゆっくりくつろいだおかげで、私の体力はだいぶ回復した。


「そろそろ行こうか。乗りたい物とかある?」


「迷路みたいなやつ、気になるかも」


「そしたら、次はそこに行こうか」


迷路の中は複雑な作りになっていて、進むにつれてどこに居るのかわからなくなった。


なんとか迷路を抜けゴールに着くと、可愛いキャラクター達が私たちを迎えてくれた。


キャラクター達と一緒に写真を撮り迷路を出る。


その後はコーヒーカップやお化け屋敷、ジェットコースターにも頑張って乗った。


色々回った頃にはだいぶ日が落ちていた。


「だいぶ回ったね」


「最後に観覧車とかどうかな?」


「いいと思う」


「じゃあ行こうか」


大きな観覧車が光ながら回っている。


遠くで見ていた時は小さく見えてたけど、いざ近くまで来るととっても大きかった。


そして天まで上がっていく観覧車を見て、私の中で少し恐怖が湧いてきた。


一度乗ってしまったら後戻りは出来ない。


「じゃあ行こうか」


土壌くんは私の手を引き乗り込む。


乗ってしまった。


少しの後悔を抱えたまま観覧車は私を乗せ上へと上がって行く。


「大丈夫?」


「うん、大丈夫・・・」


本心は早く終わってほしいと思っていた。


室内は窓ガラスによって外の景色がよく見える作りになっている。


それが余計に怖かった。


私は室内にある手すりを握って少しでも心を落ち着かせる。


もう無理。


結局怖くなり途中で目をつぶる。


暫くの間、静かな時間が流れる。


そろそろ終わったかな?


そっと目を開ける。


すると、目をつぶった土壌くんが私の顔から数センチのあたりまで迫っていた。


とっさに手で彼を突き放す。


私に押戻され驚く土壌くん。


「ダメかな?」


「ごめん・・・・」


その後は無言のまま観覧車は回り続けた。


最初の位置に戻り、私と土壌くんは観覧車から降りる。


私たちは無言のまま出口に向かう。


「僕たちって恋人同士だよね?」


「・・・・うん」


「じゃあ何でさっき僕を遠ざけたの」


「とっさの事に驚いて、体がつい・・・・」


「もし、ああやってキスされるのが嫌なら謝るよ。でも聞かせてほしい」


「何を?」


「遥ちゃんは僕の事好き?」


「・・・・・・・」


私は薄々気づいていた。


土壌くんの事を好きだと思った事が無くて、私は今でも海斗が好きだという事に。


「土壌くん、私ね・・・・」


「待って」


私が言う前に土壌くんに遮られる。


「僕たち別れよう」


「え?」


別れは彼から告げられた。


「遥ちゃんが居るべき場所は僕の隣じゃない。だから別れよう」


「・・・・ごめん」


私は背を向け、その場を後にした。






僕にとってそれは初恋で一目惚れだった。


最初に見た遥ちゃんの笑顔はとても美しくて眩しくて、まるで太陽みたいな存在だった。


そばに居ると胸が暖かく心地よくなり、もっとこの空間に居たいと感じさせた。


僕はすぐに告白した。


でも、結果は駄目だった。


その後で知った。


遥ちゃんには幼馴染が居て、彼女は油崎くんの事が好きなのだと。


それは遥ちゃんを見てすぐに気づいた。


だから一度は諦めた。


でも、二人は冬頃になっても一向に付き合う事は無かった。


僕は思った、これはチャンスだと。


冬頃ダメもとでもう一度告白した。


でも結局は振られた。


振られたけど、諦められなかった。


それほど僕は遥ちゃんに魅入られていたから。


そして、一年生の終わり頃にもう一度告白した。


それを最後にするつもりだった。


これ以上は彼女も困ってしまうと思ったから。


振られると覚悟して告白した


しかし、遥ちゃんは僕の告白を受け入れてくれた。


すごく嬉しかった。


僕は幼馴染である油崎くんより上に立てた気がした。


でも、それは違った。


彼女は油崎くんの前に居る時より、笑顔が少なくなった。


僕が見たいのは遥ちゃんの笑っている姿で、そばに居てほしいのは明るく過ごす遥ちゃんの姿だった。


僕は彼よりも笑顔にできるように頑張った。


そうじゃなきゃ幼馴染である油崎くんより上に立ったと言えないから。


そして、あの事件が起きた。


油崎くんは遥ちゃんについての全ての記憶を失った。


そのことで遥ちゃんは落ち込んでいたけど、僕は内心ホッとしていた。


これで遥ちゃんは油崎くんの下から離れ僕の下に来ると思っていた。


しかし、僕たちの距離は前よりも遠くなった。


物理的な距離ではなく心と心の距離が。


目を逸らしてきた現実を叩きつけられた気分だった。


彼女は別に僕の事なんか好きではない。


そんなことは知っていた。


でも別れたくなかった。


きょう遥ちゃんをデートに誘ったのも彼女を笑顔にしたかったから。


彼女の喜んで笑っている姿が見たかった。


僕でも君を笑顔にできると証明したかった。


でも、結局僕は遥ちゃんをあんな表情にさせてしまった。


困惑と嫌悪感が入り交ざった表情。


そして、僕たちの関係が終わりを告げる。


最後はせめて自分で終わらせたかった。


彼女から告げられるのは絶対に耐えられないと思ったから。


そして僕は遥ちゃんをふった。


遥ちゃんが長い間僕と付き合っていたのは、彼女なりに罪悪感を感じていたからかもしれない。


僕はそれをいいように利用していた。


彼女が僕の下から離れないように。


でもそれはただの迷惑行為だったみたいだ。


だからせめて僕は願った、彼女が笑顔になれる様に。


あの太陽みたいな眩しい笑顔に。

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