消えた関係

第10話 私と幼馴染

「行ってきます」


靴を履き替え、扉を開け私は学校へ向かう。


「あつい」


季節は蒸し暑くなり、セミの鳴き声と肌を刺す様な強い日差しが少し鬱陶しく感じる。


海斗が目を覚ましてから二カ月ぐらい経った。


目覚めた後医師に診断してもらい、その結果身体に異常は特に無く海斗は今も元気に過ごしている。


ただ、海斗はあの日から私に関わる一切の記憶を無くした。


医師からは事故の衝撃によるものじゃないかと言われた。


記憶がいつ戻るかはわからない。


もしかしたら、もう戻ることが無いかもしれない。


海斗にとって私は幼馴染では無くなったのだ。


これまで海斗と過ごしてきた日々や起きた出来事、沢山の思い出を海斗に話した。


そのたびに海斗はぎこちない笑顔を浮かべた。


それが、どうしようもなく辛かった。


私も海斗との思い出を忘れられたら、こんなに苦しまなくていいのに。


違う。


この思い出は私にとって、とても大切な宝物。


だから忘れたいはずがない。


でも、私だけが覚えてるなんて嫌だよ。


大切な思い出をもう一度、海斗と共有したい。


失ってしまった関係をもう一度戻したい。


それが今の私にとって、唯一の願いだった。






校門をくぐり、学校に着いた私は自分の教室に向かった。


教室の扉を開け教室の中に入ると、窓辺で佇んでいる海斗の姿が目に映る。


自分の席に荷物を置き、海斗の方に向かう。


「おはよう」


「おはよう水森さん」


「・・・・・・」


「どうしたの?」


「うんん、何でもない」


何度聞いてもやっぱり慣れないな。


でも、海斗と話せる今はあの日よりだいぶまし。


「海斗は今日も部活あるの?」


「あるよ」


「そっか、最近は部活どう?」


「最近は相談に来る生徒の数が増えてきたかな、だから少し忙しくなってきたかも」


「そうなんだ」


「水森さんは何か部活入ってないの?」


「私は何も入ってないよ」


「そうなんだ。バイトとかは?」


「今はやってないよ」


「そっか」


それからも当たり障りのない会話を続けた。


お互い探り探りの状態だったのかもしれない。


でも、今の私にはそれを続けるしかなかった。


そうじゃないと自分という存在が海斗の中から完全に消えてしまうと思ったから。


海斗の中に居た幼馴染の私は消えた。


なら今の私は海斗にとってどういう存在なのか。


海斗の中に本当に私はいるの?


少しでも自分という存在を残したかった。


朝礼が始まるギリギリまで会話を続けた後、教室にチャイムの音が鳴り響き私は自分の席に戻った。






「海斗部活行こうぜ」


「行くか」


全ての授業が終わり、放課後のチャイムが鳴り響く。


海斗と伊吹くんはこれから部活に行くらしい。


二人は椅子から立ち上がり荷物を持ち、私の方に近づく。


「じゃあな水森」


「さようなら水森さん」


「うん。ばいばい」


私は二人に手を振りお別れする。


最近は海斗の部活が終わった後に会いに行くのが日課になっていた。


だから、今日も海斗の部活が終わるのを待つ事にする。


「遥、どうしたの?」


「元気なさそうだね」


「静香、真子」


浜辺 静香はまべ しずか新島 真子にいじま まこ、二人は私の友人で一年の頃から仲良しだ。


二人とも私を心配して声をかけてくれたみたいだ。


「ぜんぜん、いつも通りだよ」


「そう?」


「悩み事あるなら私たち全然聞くよ」


「うん。ありがとう」


二人とも友達思いで、本当にいい子達だ。


そんな二人が心配するって事は何か表情に出てたのかな。


そういうとこは直さなくちゃ。


「わかった」


「なにが?」


「何に悩んでるか」


静香は何かに気づいたのか、口角を上げ少しニヤつく。


「土壌くんでしょ」


「え?」


全然違う回答に素で「え?」と言ってしまう。


「違うの?」


「そういえば遥最近あんまり土壌くんと一緒に居るところ見ないね」


「そう。だからてっきり喧嘩して、それで悩んでいるのかと思ってた」


確かに最近私はあまり土壌くんとは会っていない。


でもそれは別の事情で私から彼にしばらくの間、海斗と一緒に居たいと言い出し彼もそれを許容してくれている。


「違うよ。喧嘩もしてない」


「じゃあなんで一緒に居ないの?」


「別れたとか」


「別れてないよ」


「もしかして好きじゃなくなったとか?」


「それは・・・・」


何も言え無かった。


私はなんで彼と付き合ってるんだろう?


私は土壌くんが好きなのかな?


そんな、疑問がよぎってしまう。


「とにかく。何でもないから本当に大丈夫だから、心配しないで」


「遥がそう言うなら」


「それより、遥は今日暇?」


「特に予定はないけど?」


「カラオケ行こ、カラオケ」


「いいねそれ、遥行くよね?」


二人とは最近遊びに行ってない気がする。


海斗と一緒に居たいけど、友人との時間も大切にしたい。


今日は二人と遊ぼう。


「いいよ、行こ。久々のカラオケ楽しみ」


「そう来なくっちゃ」


私たちはその後、カラオケで思いっきり歌い楽しんだ。


カラオケの後は高校生に人気なカフェにより、甘くておいしいカフェラテなどを注文していっぱいお喋りした。


どれぐらいの時間話していたかは覚えていないけど、外を見るとだいぶ暗くなっていたので名残惜しいけど帰ることにした。


「じゃあね遥」


「ばいばい」


「じゃあね、ばいばい」


静香と真子は帰り道が同じ方向で私は反対側だったので、店の前で二人とは別れた。


家に帰ると夜ご飯が丁度できたところで、私は晩飯を食べその後シャワーを浴びた。


自分の部屋に行き、明日の宿題を終わらせる。


そろそろ寝ようかな。


電気を消そうとしたとき、スマホにメッセージの通知が来た。


見てみると、静香と真子の二人からだった。


「今日は楽しかったね」「また、遊びに行こう」そんなメッセージだった。


二人に「また行こうね」と返信しスマホを机に置く。


すると、再びメッセージが来た。


二人からの返信だと思い見てみると、相手は土壌くんだった。


「今週の日曜日、遊びに行かない?」


そんなメッセージだった。


「どうしよう」


休日は特に予定が無いが、私は迷っていた。


何を迷っているのかについて聞かれても、言葉にすることは出来ない。


結局、「その日は暇だからいいよ」と返信をし、私は了承した。


再びスマホを机に置き、その日は眠りについた。

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