第8話 先輩の誕生日

由実さんの誕生日は日曜の休日に行われた。


パーティー会場は部室。


あらかじめ学校側には使用の許可を取っており、室内の飾りつけも万全だ。


由実さんには少し遅めに来てもらうようにお願いしてあり、それ以外のメンバーは既に部室でスタンバイしている。


それぞれがクラッカーを手に持ち今か今かと由美さんの登場を待っていた。


時計の針が11時を指した時、ガラガラと部室の扉は開かれた。


「お誕生日おめでとうございます!!」


一斉にクッラカーを鳴らし、由美さんを祝福する。


「皆ありがとう」


紙吹雪が教室を舞、無数のテープが由美さんの頭に乗っかる。


「今日はいつもお世話になっている由美さんのために皆で準備しました」


「伊吹君、他の皆も本当にありがとう」


誰よりも早く部室に来て準備を行っていた傑。


由美さんとは一番長い付き合いであり、だからこそ日頃の感謝をいっぱい伝えたかったのだろう。


「さあさあ由美さん座ってください」


傑は由美さんを席に案内し、椅子に着かせる。


それから、他のメンバーも椅子に座り、パーティーが始まった。


あらかじめ用意していたケーキを取り出し、ろうそくに火をつける。


由美さんの前にケーキを用意し、感謝の気持ちを込めて皆でハッピーバースデーの歌を歌う。


「由美さん一気に消しちゃってください」


由美さんは大きく息を吸い込むと、名一杯の力を込めてろうそくの火を消す。


全てのろうそくの火が消えたところで、皆でおめでとうの気持ちを込めて拍手する。


「こんなに嬉しいお誕生日は初めてかも」


少しだけ涙目になる由美さん。


「何言ってんすか、パーティーは始まったばかりっすよ」


「そうですよ由美さん。今日のために皆プレゼント用意してるので、後で楽しみにしていてください」


「私も由美さんにはお世話になっているので、由実さんのお誕生日を祝えてよかったです」


「皆本当にありがとう。遥ちゃんも来てくれてありがとう」


「いえいえ、私も由美さんのお誕生日祝いたかったのでお礼は大丈夫です。むしろ、参加させてもらえて嬉しいです」


「そう言ってもらえてよかった」


「それじゃあ、ケーキ切りますね」


傑はケーキを綺麗に切り分けていき、紙のお皿に載せていく。


各々が切り分けたケーキを傑から受け取り、全員がもらったところで一斉に食べ始める。


ケーキを食べている間、色々なことについてお喋りした。


話題に上がったのは部活での出来事について。


遥はこの部活には入っていないため、この部活での活動について興味津々だった。


俺も入る前の活動は何も知らなかったので、少し興味はあった。


由美さんは部活を始めた理由から語りだし、傑と二人で活動していた頃の話もしてくれた。


本当に色々なことがあり、とても長い話になった。


話し終わった頃には、時間がだいぶたっていた。


「結構いい時間だし、そろそろプレゼント渡そうぜ」


各々用意してきたプレゼントを取り出し、「おめでとう」と伝えながら由美さんにプレゼントを渡す。


「皆本当にありがとう。このプレゼント達今開けてもいい?」


「いいですよ」


由美さんは一個一個丁寧に包みから取り出し、プレゼントを開封していく。


「この箸置きかわいい」


「かわいい箸置きがあったら、喜ぶかなって思って用意しました」


「ありがとう雫ちゃん」


神風の用意した犬の形をした箸置きをもらい、大喜びする由美さん。


次に開けたのは遥のプレゼント。


「このシュシュもかわいい」


「由美さん髪長いし、このシュシュ絶対に似合うと思ってプレゼントに選びました」


「ありがとう遥ちゃん」


次に開けたのは俺のプレゼント。


「これは商品券?」


「何あげればいいのか悩んでもわからなかったので、商品券にしました」


「有難く使わせてもらうね」


会場に微妙な空気が流れた。


一番無難だと思って選んだけど、間違えたか?


「最後は伊吹君ね」


「俺なりに考えて選びました」


由美さんは傑のプレゼントをゆっくりと開ける。


「これかわいい」


傑のプレゼントは猫のマスコットキーホルダーだった。


「前に鍵に着けるキーホルダーが欲しいって言ってたんで、自分なりに探してみました」


由美さんはカバンから鍵を取り出すと、貰ったばかりのキーホルダーをさっそく付ける。


「伊吹君ありがとう」


傑も由美さんの笑顔が見れて満足のようだ。


「皆プレゼントありがとう。全部大事にするね」


由美さんは開封したプレゼントを丁寧にカバンに入れていく。


「そしたら行きますか」


「どこに?」


「焼肉です」


由美さんには伝えていなかったが、この後に焼肉屋さんを予約していた。


「その前に写真撮りましょ」


椅子と机を少しどかし、写真を撮る準備をする。


わざわざ部室に集まった理由は、飾りつけした部室で写真を撮りたかったからだ。


部室には由美さんの私物のカメラが置いてあり、それを使いみんなで写真を撮る。


「いい写真取れてますよ」


「本当だ」


「いい感じね」


「スマホの方でも撮ろうぜ」


次に俺のスマホを使い写真を撮る。


スマホの方もバッチリ取れていて、みんないい笑顔だった。


「後で皆に送りますね」


「そういえば私、伊吹君以外の連絡先交換してないや」


「そういえば俺由美さんと交換してなかったですね」


今更だったが、俺はその場で由美さんと連絡先を交換した。


神風の連絡先も知らなかったので、神風の連絡先も一緒に交換してもらう。


神風は連絡先が増えたことが嬉しかったのか、皆の連絡先を貰い喜んでいた。


「そしたら予約もしてるし、そろそろ焼肉行きましょう」


部室のかたずけはまた後日に回し、俺らは部室を後にした。






予約した焼肉屋さんは、学校からそこそこ近く歩いて15分程で着く。


予約していた時間には余裕をもって着けそうだったので、まったりとお喋りしながら向かった


お喋りしながら向かう途中、横断歩道があり青信号になっていたので信号を渡る。


渡ると同時に信号は点滅し始めたので、急いで渡りきろうとした。


そこで、


「おーい、遥」


俺らの後ろ側から遥を呼ぶ声がする。


遥を呼んだのは、遥の彼氏の土壌だった。


その声に反応し遥は後ろを振り向く。


そこでちょうど点滅していた信号は赤に変わる。


急いで信号を渡ったので、信号を渡り切るまで遥が渡り切れていないことに皆気づいていなかった。


俺たちは信号を渡り切った後、遥が居ないとすぐに気づく。


そこで一台の車が走ってきた。


車道側は青信号になっているが、横断歩道に人が居たら止まるだろ。


そう誰もが思っていた。


しかし、車は速度落とさずに横断歩道に向かっていく。


その瞬間、時間がゆっくり進んでいくように感じられた。


「遥ちゃん危ない」


誰が遥の名前を呼んだのかわからなかった。


わかることは遥が車にひかれず済んだという事だけ。


遥は前に倒れる形で車をよけたのだ。


それが最後のワンシーンだった。


俺の意識はそこで途切れる。






何が起こったのかわからなかった。


急に後ろから押され私は倒れた。


倒れる直前後ろの方で大きな音がした気がする。


私は振り返った。


そこには車が止まっていた。


さっきまで私の居た位置に車が止まっていたのだ。


視線が車の進行方向をとらえる。


誰かが倒れている。


少し先の方で誰かが倒れていて、皆がその人の方に駆け寄って行く。


私も駆け寄ってみる。


そして気づく、倒れていたのが海斗だという事に。


私は理解した、恐ろしい現実を。


「かいと・・・・」


呼びかけに反応は帰ってこなかった。

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